70 崩壊による支配
連続投稿二回目です。引き続き主人公不在の話になります。
ティーダ王国は小国の島国で、周りを強国に囲まれている。交易により他国と親しくなることで、争いを避けてきた。なので、兵士たちは、内乱や魔物の討伐しか経験がないため練度はどうしても他国に劣ってしまう。
今まではそれでもよかったが、エジルバ王国のリセイン侯爵がティーダ王国を侵略する計画が動いていることを知った。それを聞き、ハリユンは以前から親しいオノコロノ国に助けを求めたのである。
「ああ、わかっています。そんなことは。だが、戦う前から不要だと判断された兵士たちの、俺の、この行き場のない怒りはどうすればよかったのです」
チルダルの言葉に息を呑む。
ティーダ王国に住む民に余計な血を流させたくないために考えたことだった。王としてこの判断は間違ったものではないと言えるが、兵士たちの気持ちなど考えたことなどなかった。話し合ったとしても同じ結論になるだろう。
しかし、話し合っていたならば、今のように剣を彼に向けるなどなかったのではないか。
「…チルダル」
「もう遅いのですよ、ハリユン様」
こちらを見るチルダルの目はもう怒りを感じなかった。あるのは誇りも何もかも全てを諦めた空虚だけ。
「ティーダ王国はもうじき、エジルバ王国に占領されます。俺が手引きしましたから」
チルダルが何を言っているのか、理解ができなかった。この誇り高い男がエジルバ王国を手引きした。そう言ったのか。
「貴方は名前以外何も変わらないと言ったが、それは違う。国がなくなれば誇りも何もかもなくなるのですよ。オノコロノ国の犬となって生き恥を晒すよりも、今ここで崩壊したほうがいいと思いませんか?」
「何を言っている、貴様!!
よりによってエジルバ王国の手によって崩壊することを望むと言うのか!!」
チルダルは何も答えようとせず、ただハリユンを見て笑い、自らの首に取り出した短剣を当て、掻き切り、絶命した。
ハリユンはただ、見ていることしか出来なかった。
チルダルの側に駆け寄り、もう光を映さない彼の目を見て、この男をここまで追い詰めたのは自分だと、後悔の涙で前が見えなくなった。
もう炎はそこまで来ており、逃げることはできない。火にまかれるより、いっそのこと。
チルダイの手から短剣を取り、先ほどの彼のように首に刃を当てる。
「――クグル。君と一緒に生きられない私を、どうか許してくれ」
王座に倒れた者全てを炎が包む。そのときに炎とは違う赤い光があったが、誰も気がつかなかった。生きている者が誰もいないのだからそれも当然なのだが。
程なくしてティーダ王国は崩壊し、エジルバ王国は五年もの間その土地を支配していた。そのことにオノコロノ国はしばらく気がつくことはなかった。
それというのも時同じくしてオノコロノ国はラシムズ帝国の攻撃を受け、戦いとなっていたからだ。ラシムズ帝国に勝利するも戦いは五年にも及んだためその間、気づくことが出来なかったのである。
盟約を結んだ友であるティーダ王国を守ることが出来なかったオノコロノ国はエジルバ王国に怒りを向けた。
強国であるラシムズ帝国に打ち勝ったオノコロノ国を恐れたエジルバ王国は、ティーダ王国へ侵略は自国のリセイン侯爵が勝手に行ったことであり、国は関与しておらず、すでに処分したので怒りを収めて欲しいとオノコロノ国に懇願した。
オノコロノ国としては納得できなかったが、ラシムズ帝国との戦いの傷がまだ癒えていない今、エジルバ王国と争うのは得策ではないと考え、これを承諾。不侵略条約を結び、ティーダ王国はオノコロノ国、ティーダ藩と名前を変えた。
しかし、それから五十一年もの時が経っても、ティーダ藩は真の意味でエジルバ王国から解放されることはなかったのである。
次はアッシュたちに視点が戻ります。本日20時に投稿するので注意してください。