69 歴史も想いも赤く燃える
第二部初回ですが、主人公不在の話になります。
次は本日12時投稿なので、ご注意ください。
城が赤く燃えている。祖先たちが何百年と紡いできたものが崩れ落ちる。
王の玉座を前にしてお互いに剣を向け、二人の男は睨み合う。火の手がこちらに向かっているにも関わらず、どちらも逃げようとしない。
二人の男のうち、まだ成人して数年といった若者の目には涙が溢れるが、泣くのは今ではないと自分に言い聞かせ、歯を食いしばる。
彼の足下には長年仕えてくれていた従者が転がっている。自分をかばい、亡くなった彼を本来なら丁重に弔いたい。
しかし、目の前の男はそれを許さない。
「何故、私たちを裏切った。チルダル!!」
チルダルと呼ばれた、まさしく男盛りの強者といった風体の人物は嗤う。それは叫ぶ男を蔑むような、だが哀れむような嗤いだった。
「ハリユン様。俺は裏切ってなどいませんよ。裏切ったのは、貴方たちのほうでは?」
チルダルのいう裏切りの意味がわからず、眉間にシワを寄せる。言っていることがわからないハリユンようすの姿を見て、彼は大きな声で嗤う。
「わかりませんか?
この誇り高いティーダ王国がオノコロノ国の一部になるなど、王である貴方の考えであったとしても認めるわけにはいかない。認められる訳がないだろう、この売国奴が!!」
顔を歪ませ、チルダルは怒鳴る。怒りのためか、ハリユンに向けている刃が小刻みに揺れる。
「オノコロノ国とは昔から我々と杯を交わした兄弟。それが家族になるだけだ。
お前のいうこともわかる。しかし、エジルバ王国の脅威を前に手を組むのは当然のことであろう」
ハリユンの言葉にチルダルは鼻で笑う。
「手を組む? 彼の国の一部になることの何が手を組むことになるのですか」
「我々の力だけではエジルバ王国に対抗することはできない。
しかし、昔から交流があるといっても他国を無条件で支援するなどオノコロノ国の民も納得しないだろう。だが、同じ国の民であれば協力することは当然だと彼の国の民なら思うはずだ。協力を得るためにはこうするしかないのだ。
たとえ、オノコロノ国の一部になったとしても、ティーダ王国を支配するつもりはないと了承も得ている。変わるのは国の名前、ただそれだけだ。我々の誇りがなくなることはない」
チルダルはうつむいてハリユンの話を聞いていたかと思うと、急に顔を上げ、斬り掛かってきた。ハリユンは何とか剣を受け止めるが、怒りに燃えるチルダイの力は凄まじく、押し切られそうになる。だが、足を踏ん張り、何とか耐える。
「ティーダ王国がなくなることの何がそれだけだ、ふざけるな!!」
「我々がエジルバ王国に侵略されずに生き残るにはこれしかない。それはお前が一番わかっているはずだろう!!」
剣を押し返し、ハリユンは後ろに飛び、距離を取った。チルダルは歯を強く噛み、こちらを睨んでいる。オノコロノ国の一部となることを決めたハリユンが憎いのではない。
ティーダ王国の兵士としてエジルバ王国に対抗する力がない自らに腹を立てているのだ。
長い付き合いであるハリユンにはそれがわかる。
次の12時更新の分も主人公不在の話が続きます。