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自称慎重な冒険者ケビンの譲れないもの

「あ、でも、薬草なんて、農家の人も作ってますし、学べばそれぐらい誰でも出来るので、別に僕なんかが採取しなくてもいいかな、なんて」


 先ほど後ろ向きに考えていたことを不意に口にしてしまう。褒めてくれる人にそんなこと言いたくなかったのにと思っても、後の祭りだ。


 仮面の冒険者は何か考え込むように口に手を当てる。困ったような姿に見えて、言った言葉を取り消したいと願っても遅い。


「確かに、そうかもしれないですね。栽培に成功したおかげで、ポーションなどが安定して供給されるようになりました」


「で、ですよね」


 褒められたこの人からケビンの後ろ向きな考えを肯定する言葉は聞きたくなかった。

 乾いた笑いでごまかしたが、声で落ち込んでいることが丸わかりだ。


「ですが、成功したのはポーションで使用する薬草などの数種類だけです」


 ポーションで治すことが出来るのは外傷や魔物による毒などだけだ。病は医師が判断し、適切な薬草を組み合わせて薬作り、治すものだ。

 だから、栽培に成功したと言っても、病に必要な薬草の採取の依頼はいつでもあり、冒険者へ薬草採取の依頼は途切れることはない。


「病に使用する薬草はいまだに野生でしか採取出来ない物が多いですし、それこそ未知の薬草を見つけることができるのは、薬草に詳しい採取専門の冒険者だけだと思います。

 それに貴方は学べば誰でも出来ると言いましたが、学び続け、努力し、それを実行することは誰でも出来ることではありません。頑張った自分を否定しないでください」


 これは慰めだ。ケビンがあまりにも暗いことを言うものだから、言ったのだ。そう思っても、この人の言うとおり、少しは頑張った自分を認めていいのかもしれないと思える。


「…僕、頑張ってます、かね?」


 いつの間にかうつむいていた顔を上げて仮面の冒険者を見る。その人は微笑みながらケビンに答える。


「貴方は頑張っていますよ。採取専門の冒険者として自信を持ってください」


 仮面の冒険者はケビンを真っ直ぐに見つめてくる。その顔を見続けることが出来なくて、つい、うつむいてしまう。

 確かにわかってくれる人もいるが、今日のように馬鹿にする人間がいるのも事実だ。


「もし、貴方の仕事を馬鹿にする人がいるのならば、それは知らないからです。

 知らないから、ただ薬草を採取するだけだと馬鹿にできるんですよ。」


「…知らないから」


「ええ。ですから、貴方は胸を張って採取専門の冒険者としてどんな仕事をしているのか馬鹿にする人に教えてあげればいいんです。

 採取するだけではなく、学んだことを活かして薬草ごとに保存方法を変えたりと丁寧に仕事をしていると。馬鹿にするなら同じことが出来るのかと言ってやれば、さすがに相手も黙るでしょう」


 ケビンはそれ以上騒ぎにしたくなくて不満を愛想笑いでごまかした。

 しかし、ケビンがどんなことをしているのか知らない冒険者には言わなければわからなかったのだ。黙ってしまったからこそ、自分の考えが正しいのだとあの冒険者は思っただろう。

 だが、言い返すには勇気がいる。気の弱いケビンにはそんなものはない。


 戸惑うケビンに気がついたのだろう。何も答えることができないケビンに優しく言葉をかける。


「まぁ、人を馬鹿にするような人には何を言っても聞く耳を持たないと思うので無視するのが一番だと思いますけどね。余計な争いを生まないためにも。

 ですが、本当に譲れないことは、はっきり言わないと、自分の心もごまかすことになってしまうかもしれませんよ」


「僕が、譲れないこと」


 馬鹿にされたことで腹が立ったということは採取専門の冒険者として譲れないものが、誇りがケビンの心にあったからだ。誇りといえるほど立派なものではないかもしれないが、もう少しだけ頑張ってみようかなと思うことが出来た。

 我ながら単純だが、それがケビンだ。それでいいのかもしれない。



「これで全部でしょうか」


 仮面の冒険者に拾ってもらった薬草を確認し、全て回収することできた。


「はい、ありがとうございました」


 ケビンが礼を言うと、どこからが声が聞こえてきた。


「お~い、僕の方は終わったよ。ブランク君は、どう?」


 声の方を見ると、日に焼けた健康的な肌をした女性がこちらに向かって手を振っていた。

 女性に向かって仮面の冒険者が答える。


「ああ、俺の方も終わったよ。今そっちに行く」


 仮面冒険者は、何故かサイクロプスに手を合わせ、魔法か何かを使ったかと思うと、魔物の姿が消えていた。おそらく、持っていた魔法(マジック)(バッグ)に収納したのだろうが、魔法(マジック)(バッグ)を初めて見たケビンは目を見開いた。


 驚いて声も出ないケビンに仮面の冒険者は礼をして立ち去った。立ち去ったあとをただ、ケビンは見つめる。


「ブランクさんっていうのか、あの冒険者」


 それが、ケビンにとって忘れられない冒険者との出会いであった。








これにて閑話終了です。明日から第二部に入ります。

第二部の初回の明日のみ、0時、12時、20時の三話、投稿予定ですので、注意してください

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