自称慎重な冒険者ケビンは冒険者を辞めたい?
「はぁぁ」
ただ採取するだけではなく、採取専門の冒険者として丁寧に採取しながら、ケビンはため息を吐く。ため息を吐くケビンに答える者はおらず、野原の草が揺れるだけだ。
今日ギルドに行くと久しぶりに採取専門の冒険者として馬鹿にされた。冒険者といえば魔物を狩る者が多いのは確かだが、それを理由に戦闘をしない臆病者として採取専門の冒険者を馬鹿にすることは理解が出来ず、腹立たしい。
…まぁ、馬鹿にした冒険者に言い返すなど到底出来ないケビンは愛想笑いでその場を乗りきったのだが。
確かに採取専門の冒険者で戦闘も熟す者は少ないが、いない訳ではない。
それで言えば、S級冒険者パーティーに採取専門の冒険者が所属しているのだ。
彼は他の戦闘を得意とするメンバーに劣らないほどの実力を持つと言われ、パーティーメンバーと共に凶暴な魔物が跋扈する秘境を訪れて貴重な薬草を採取することもあるそうだ。
そんな凄い人もいるのに馬鹿にする人間が信じられない。
「はあ」
だが、そんなことを言われるとこのまま採取専門の冒険者でいいのかと思ってしまう。
薬草の一部は農家が栽培に成功し、市場に卸していることを考えると、冒険者が採取する必要があるのかと悩んでしまう。
S級冒険者の彼なら、そうとも言えないが、ケビンのような誰でも採れる場所にある薬草を採取するなんてそれこそ冒険者でなくとも出来ることだ。それを今後も続ける意味はあるのかと思い、手が止まってしまう。
「辞めようかな」
何度も考えたことはある。ケビンの採取した薬草を褒めてくれる人もいるが、そうではないことがほとんどだ。感謝されるためにやっている訳ではないが、馬鹿にされるとどうしても色々と考えてしまう。
しかし、今更辞めたところで何をすればいいのだろう。
農家は土地がなければできないし、そう簡単にできるものではない。商人として物の善し悪しがわかる訳でも、客と上手く話をして商品を勧めることも出来そうにない。
冒険者としての経験をいかし、冒険者ギルドに就職というのも考えたが、屈強な冒険者にすごまれても笑顔で対応し、テキパキと仕事をする職員の姿を見ているとケビンにも同じことが出来るとは到底思えない。
何を考えても堂々巡りで答えが出ない。出るのはため息だけで、気もそぞろだ。
そう、いつもなら警戒していたのだ。ケビンのような臆病で戦う力がない者は魔物に出くわしてもいつでも逃げられるようにしなければいけない。
だが、馬鹿にされ、これからどうするか考えることに集中して、警戒を忘れていたのだ。
野原の草が揺れる。
しかし、それが風の所為ではなく、地響きが原因だと気がついたのは、採取した薬草を入れようと鞄の口を開けた時だった。
「え? な、なにこれ?」
誰も答えてはくれないのはわかっているのに、腰が抜けてしゃがみ込むという間抜けな姿になりながらも問わずにはいられない。
やがて、大きな影がケビンを覆った。恐る恐る見上げると巨大なサイクロプスが手に棍棒のような武器を持ち、口からよだれを垂らし、ケビンを見下ろしていた。
何でこんなところにと思っていると、不意に今日、ギルドを訪れたときのことを思い出した。
確か、薬草採取の依頼書を受付に持っていくと、採取予定の場所に強い魔物が出るので他の依頼を勧められた。いつもなら職員の忠告はありがたく聞くのだが、その会話を聞いた冒険者に採取専門の臆病者として馬鹿にされたのだ。よほど頭にきていたらしく、忠告してくれた職員の言葉など今まで忘れていた。
閑話の二弾はケビン視点の話になります。三話の短い話ですが、どうかお付き合いください。
主人公組しか興味ないと言う方はこの話が終われば第二部なのでそれまでお待ちください。




