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キース③

 カップルの女性の方に親切を装って色々聞いてみる。

 話しているうちに彼女は、彼のことを愛していると思い込んでいるようだが、実際は尽くしている健気な自分に酔っているのだとわかった。


 周囲の心配も聞かず、男に尽くし続ける彼女の姿がますます、母のようだと苛立ちを抑えて好き、愛しているなどの決定的な言葉は口にせず、優しく相談に乗った。

 自分に酔っている彼女なら確実に勘違いするだろう。すると、多少の葛藤はあったようだが、面白いようにキースに心変わりをした。


 これ以上彼と付き合っている君を見たくないというと彼女は人目のあるギルドで彼に別れを告げた。別れを告げられ、最初は怒っていた男が、最後は彼女にすがる情けない姿にキースは大きな声で嗤った。男がまるで母に別れを告げられた父のように見えて、言いようもない高揚感だった。


 その後、男はパーティーにいられなくなり脱退。女性はキースにすり寄ってきたが、自分はそんなつもりはなかった、相談に乗っていただけだというと泣き崩れ、彼女も脱退した。


 二人は主戦力であったため、それからすぐにパーティーは解散になってしまった。

 パーティーメンバーは虐げられる彼女を心配したキースの行動で起きたことだと理解しているため彼を責めるようなことはしなかったが、他の冒険者はそうではなかったようだ。


 キースがソロに戻ってしばらくすると寝取ってパーティーを解散させた男として噂になり、パーティーを組もうと冒険者に話しかけるが、皆相手をしてくれなくなった。

 わかりやすい誘惑はしていないし、上手くやれていると思っていたが、些か派手にやり過ぎたと反省する。だが、あの時の高揚感は忘れられそうにない。


 一人では出来ることが限られるのでどうしようかと考えていたときにマテオに声を掛けられた。見るからに怪しく、噂を知って、心配で声を掛けたと聞いてろくな人間ではないと自分のことを棚に上げる。


 話を聞くとマテオがギルドマスターを務めているギルドにも屑な男に侍る女性中心のパーティーがあり、将来有望な彼女たちを心配しているのだが、彼女たちはマテオが何を言っても聞く耳を持たず、その男から離れるのを拒否しているらしい。

 そこで、キースに彼女たちの目を覚まさせて、男から引き離して欲しいとお願いされた。


 いいことを言っているように聞こえるが、噂を知って声を掛けたということは、その男から彼女たちを寝取れと言うことだろう。



「…剣聖の愛弟子」


 そう、呟くと、キースは思わず、拳を強く握る。断ろうと思ったが、彼女たちのことを聞き、考えが変わった。


 惚れさせてキースの言うことを何でも聞くようにさせれば、パーティーを乗っ取ることも容易だ。実力があると言うならば、彼女たちを利用してもう一度王都に返り咲き、今度こそ父を見返すことができるかもしれない。



 屑男、いやアッシュに会ってマテオの言うことや噂が当てにならないことがわかった。

 確かに冒険者としては弱いのだろうが、彼には弱いなりにどうにかしようという意思を感じた。ポーターとしてキースたちのサポートなどの仕事も手を抜かず良くしてくれている。

 時々、ポーターとしての仕事を逸脱し、冒険者として行動を取ることがあるのだが、それがキースたちの利益になる内は見逃してもいいと思えた。


 彼を知れば知るほど、とても周りから悪く言われるような人間とは思えない。周囲の醜い妬みやマテオの仕業なのだろうが、本人がそういう悪意を上手く躱し、説明をしないから誤解されたままなのだろう。

 それに気づいてもキースがアッシュに言う義理はないが。



 邪魔をしないのなら、気に食わないがそのままでもいいと思っていたが、ブラックウルフの討伐後からキースの何かが変わってしまった。

 しかし、それを認めることが出来ない。自分がそれを自覚する前にすぐに排除しなければと焦り、脱退させたが、アッシュの姿は彼がいなくなった後も鮮やかに蘇り、キースの心を蝕む。


 アメリアがアッシュを好きになったきっかけは、夢を語る彼が眩しかったからだと聞いた。

 そのときは聞き流していたが、今なら彼女の言っていることがわかる。

 力がないにも関わらず、恐れることなくブラックウルフに立ち向かっていくあの背中、理不尽な言い分により脱退を迫られても決して折れなかった意思の強さ。

 そのどれもがキースには眩しかった。


 強制的に教えられた剣は、父への復讐のためのものでしかなく、アッシュのように強い志を持って手にしている訳ではない。


 冒険者になったのも、ただ父を見返すための手段に過ぎない。アッシュのように冒険者になって叶えたい夢のためなど高尚なものではない。


 自分には父への復讐以外何もない。


 では、それがわかったところでどうすればいいのか、自分はどうすれば良かったのか。

 考えても何もわからず、キースはこうしてうつむくことしか出来ないのだ。








キースの事情は以上になります。

あと一つ、本編には関係のない話を入れて、第二部開始になりますので、よろしければもう少しお付き合いください

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