キース②
キースの父は異常なほど強さに固執していた。それは、名のある騎士を輩出してきたという家から縁談が来ると長年の婚約者である母と婚約を解消するほどのものだった。
だが、父は完全に母を解放することはなく、新たな婚約者と結婚後も愛妾として母を本邸の近くにある別邸に住まわせ、自分の側に置き続けた。父を愛しているからとこれを了承したのだと言う母のことが、キースはいまだに理解できない。
やがて正妻に男の子が産まれ、剣を習わせたのだが、父を満足させるには至らなかった。
そんなときにキースは産まれた。剣を持てるようになると、剣の教師も驚くほどの才能を彼は見せるようになる。それは年の離れた異母兄とは比べものにならないほどだった。
それを聞いた父は、母にきつく当たり、キースを触ることすら拒否したのを忘れたかのように彼を殊更可愛がるようになった。満足そうに笑う父の顔、つられて笑う母の姿にキースも幸せを感じていた。この幸せがいつまでも続くと愚かにも信じていた。
正妻と異母兄がこの状況を面白く思わないのは当然のことだろう。
ある日、父の前で稽古として異母兄と打ち合っていた時のことだ。急に体調が悪くなり、キースは異母兄に負けてしまった。キースに勝ったときの笑みから彼が何かしたのは明白だった。父に訴えたが、策略に掛かり、それを見抜けずに負けた者が悪いとして、それからキースへの関心がなくなった。挨拶をしても父だけでなく誰も返事をしてくれなくなり、その日からキースは存在しない者として扱われるようになった。
そのうち、母と共に別邸から追い出された。母は父に一目会わせてくれと訴えるが、父は母もキースの姿も見たくないと言っていたと聞かされ、彼女は膝から崩れ落ちた。
母の生家は父から追い出された彼女を厄介者として扱い、金と家を用意して市井に追いやった。その日から母は泣いて暮らした。
キースはいつしか、父を恨むようになった。いつか、国に認められるような剣士になり、父を見返してやろう。父は人を見る目がない男なのだと国中に思い知らせてやろうと思うようになった。
生活のために、また、剣の腕を磨くためにキースは冒険者のまねをするように魔物を狩るようになった。
剣を手にするキースの姿に母は喜んでくれたが、その目は彼を見てはいなかった。今思うと、母はキースを愛してくれていたが、愛する人との子供と言うだけで、彼自身を愛してくれてはいなかったのだ。
冒険者に登録し、活躍し出すとキースは天才だと呼ばれるようになった。
しかし、それも冒険者の間で言われているだけに過ぎない。父の耳にはまだ到底届くことはないだろう。
そんな時にパーティーへの勧誘を受けた。一人での限界を感じていたキースはこれを了承する。居心地は悪いものではなかったが、それよりもパーティー内で付き合っているカップルが気になった。
冒険者同士で付き合うことは良くあるが、目に付いたのはそこではない。
カップルの男の方が女性にひどく当たっていたからだ。人前で罵倒し、彼女の取り分すら自らの懐に入れ、遊び回っていたのだ。そのカップルの姿に自分の両親の姿が重なる。