07 その勘は警告し続ける
「ミミーさん。お試しでキースさんをパーティーに加入するということでは、だめなのでしょうか?」
「マリーナさん、なにを」
マリーナは、アメリアの手に自分の手をそっと包むように重ねた。アメリアが思わず顔を上げるとマリーナは微笑みながら頷いた。
その微笑みは言葉にせずともアメリアの気持ちはわかっているといっているように見えた。
「私たちはアメリアさんが一人で頑張っていることをずっと知っています。
私もミントさんもアメリアさんの負担を減らしたいと思っていましたが、後衛という役割ではどうしようもありませんでした。
ですが、前衛一人追加するだけでアメリアさんの負担が減るのなら、私はキースさんの加入に賛成です」
「ですが」
マリーナはミミーにも微笑む。それはいつもの聖母のごとく美しい笑みだったが、アメリアに向けたものとは違い、聞き分けのない子供を諭すようでもあった。
「ですから、お試しでの加入です。私たちとの相性もあると思いますから、何回か一緒に依頼を受けて、そのうえで本加入するか考えるのでいいのではないでしょうか」
ミミーはマリーナの微笑みを前に何も言えなくなってしまった。ならばと、ミントに話しかける。ミントならきっとわかってくれると根拠のない自信があった。
「ミントさんは反対ですよね」
「なんで?」
それは純粋な疑問だった。ミントにアメリアたちとパーティーを組むように勧めてくれた恩があるとはいえ、他人であるミミーに自分の気持ちを勝手に決めつけられることに少し腹が立った。
「いつもは普通のエルフ魔法を使ってるけど、強い魔物なら古代エルフ魔法を使うこともある。
けど、古代エルフ魔法は他の魔法を違って魔力を練って詠唱をするのに時間が掛かるし、繊細。正直、アメリアが倒れないか心配しながら使うのは大変だった。
でも、前衛が増えてアメリアが倒れる心配をしなくてもいいなら、ミントの心配もなくなるってことでしょう?
なら、加入してもいいんじゃない?」
ミミーはアメリアたちの初めて拒絶に戸惑った。いままで何でも同意してくれていたのに。
「それに、ミミーも知ってたんじゃない?アッシュが何もしてなかったってこと」
ミントの言葉にミミーは何も言えなくなってしまった。冒険者ギルドの受付で『四本の白きバラ』の担当の受付なのだ。知らないほうがおかしい。
しかし、アメリアたちに言ってしまえばアッシュに不信感を持つに決まっている。だから黙っていた。
アメリアたちの冷たい視線がミミーに刺さる。黙っていたことで不信感を持たれたのはミミーもだった。
「では、僕は『四本の白きバラ』に加入するということでよろしいでしょうか」
なんとも言えない空気の中、妙に明るく微笑みながらキースが言った。
「あくまで、仮よ」
アメリアがキースを睨む。アッシュに失望したとはいえ、まだ情はあるのだ。
いや、心のどこかではまだ彼を信じたかったのかもしれない。
「いや、めでたいねぇ。めでたいついでに、そこのE級をパーティーから脱退させてはどうかね。
そんな士気が低いやつがメンバーにいたら君たちも力を発揮出来ないんじゃないか?
なに、ポーターなら専門の者を雇えばいいじゃないか」
いかにもいいことを思いついたという笑顔でマテオは自慢の髭をなでる。
その言葉にアメリアたちは言葉に詰まった。
前衛として戦えなくてもアッシュがポーターとして頑張っていたのを知っている。アッシュのサポートで討伐がうまくいったことも一度や二度ではない。
しかし、自分たち信頼を裏切ったアッシュをそのままにしていいのかという思いもあった。
「脱退は可哀そうじゃないですか。ポーターとしては頑張っていたらしいし、彼女たちをよく知る彼だからこそできることもあるかと思います」
キースはマテオに優しく声を掛け、なだめた。キースの言葉にマテオは微笑みながらうなずいた。
「キース君は優しいねぇ。おい、E級、キース君がそこまで言ってくれているんだ。
その恩に報いるために身を粉にして働けよ」
「…はい。ありがとうございます」
アッシュは力なく返事をし、頭を下げた。アッシュの長い髪が揺れるだけでそれ以上は何も言わず、ただ、頭を下げ続ける。
どんな醜い言い訳をするのだろうと期待していたマテオはそんなアッシュの態度につまらなそうな顔をした。これ以上彼をいじっても面白くはならないと判断したようだ。
「では、君たちパーティーに受けてもらいたい依頼がある。キース君の実力を知るためにも受けてもらいたい」
マテオはそういうとミミーに依頼の紙を出すように指示した。
もう彼女は抵抗する気力もなくなってしまい、素直に言うことを聞いた。
――ミミーの勘は警告をする。このままでは近いうちに『四本の白きバラ』はよくないことが起きると。しかし、彼女にはどうすることもできなかった。
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