66 ひどい
アッシュはレセトンベモンキーと同じ高さまで登ってきた。
周囲にあったつらら石はヒルデによって破壊され、レセトンベモンキーは為す術もなく片手でぶら下がっている。その片手で掴んでいるつらら石も破壊しようとヒルデが矢を放つが、それだけはさせまいとレセトンベモンキーは腕を振り上げ、矢を落とす。
近くでつらら石が復活する。レセトンベモンキーは掴もうとするが、ヒルデがそれを許さないように矢を放ち破壊する。掴もうとしたつらら石が破壊されたレセトンベモンキーは悔しそうにヒルデを睨み付けた。
今ならヒルデの矢だけに注意がいき、アッシュに気がついていない。
アッシュはレセトンベモンキーに向かって飛んだ。
一撃で仕留めるためにミスは許されない。
鞘に納められた刀の柄を握って、目を閉じ集中する。周りの音は一切聞こえない。聞こえてくるのは自分と刀の鼓動だけだ。大きく息を吐き、呼吸を刀と一つにする。
目を開き、刀を頭上高くまで振り上げ、レセトンベモンキーに向かって真っ直ぐに振り下ろす。
背後から斬られたレセトンベモンキーはつらら石から手を離し、下へと落ちる。
やがて、レセトンベモンキーが地面に落ちた衝撃で地面が揺れた。
同じように落ちるアッシュは手を伸ばし、竹の枝を掴むことができた。アッシュが掴んだ竹はしなり、安全に降りられる高さになると手を離し、地面に降り立った。
血振りをし、刀を鞘に納め、ヒルデのもとに向かう。彼女はレセトンベモンキーの側で佇み、うつむいてる。いつものヒルデと異なる雰囲気を感じて、アッシュは心配になった。
「怪我はないか?」
「…アッシュ君」
アッシュに気がついたヒルデはゆっくりと顔を彼の方に向ける。
顔を上げた彼女は頬を膨らませ、口を尖らせて、顔を真っ赤にしていた。
「君だって、魔物の頭かち割ってるのに、僕だけ何か言うなんてひどくない?」
ひどい、ひどいというヒルデを無視して、地面にうつぶせに倒れているレセトンベモンキーを見ると頭が真っ二つに切り裂かれていた。
「…あぁ、すまん」
一撃で仕留めようと思ったが、ここまでするつもりはなかった。
安らかに眠れとアッシュは手を合わせた。
レセトンベモンキーを倒すと、地面に落ちていた岩などは消え、辺りはアッシュたちが倒した魔物と彼らが持っていた武器だけが残った。
「僕たちが倒した魔物と武器だけ残ったね」
「ダンジョンコアが修復を始めたからだろう。修復に大量の魔力を消費するらしいからな、これでダンジョンコアの暴走も収まるだろう」
倒したシーフモンキーをアッシュが回収していると輝く剣が目に映った。
間違いない、あの時、持ち去られた家宝の剣だ。剣を手に持ち確認したが、幸い傷はないようだ。
ほっと安堵のため息を吐き、一先ず、アッシュはペンダントに収納した。
「も~、こんなにあったらおじさんの武器なんてわかんないよ」
地面に落ちた武器を回収していたヒルデは叫びに似た声を上げた。
回収した武器は一つの場所にまとめて、後で収納しようと二人で決めたが武器は思っていたよりも多く、山のように積み上がっている。
武器が多いと言うことは奪われた武器の数だけ冒険者がこのダンジョンを訪れたということだ。どれだけ放置されていたのだろうかとダンジョンを見つけても報告せず、魔物に武器を奪われた冒険者たちに呆れた。
「こうなったら、ブロディ殿に任せるほうがいいか」
本来なら冒険者ギルドに提出したほうがいいのだろうが、ミバルの街のギルドは今頃、初心者狩りの冒険者と組んでいた職員のことで混乱している。
ドーナ領のことなのでジョージには頼めない。それならば、ブロディに託すしかいないだろう。彼なら初心者狩りの冒険者を調査していたときに見つけたなどとごまかしてくれるだろう。家宝の剣のことと合わせて、彼から渡された紙に書き、連絡した。
「じゃ、一旦、僕が預かっておくね」
ヒルデは空間魔法で作った空間に武器をポイッと雑に放り込む。
魔物を全て回収したことを確認するとアッシュはヒルデに声を掛けた。
「俺は回収し終えたが、そっちはどうだ」
「ん。僕も全部いけたと思う」
「じゃあ、外に出るか。あそこに出口があるしな」
アッシュの目線を追うといつの間にか入り口とは違う扉が出来ていた。
ボスを倒したことで出現したのだ。ヒルデは頷くとアッシュと共に扉を開いた。
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