64 ためらい
つらら石やシーフモンキーによる攻撃を避けながら、レセトンベモンキーの死角に入り、ヒルデは弓を取り出すと、レセトンベモンキーに向かって矢を放った。
矢はレセトンベモンキーの腕に刺さったが、つらら石を掴む手を離すことはなかった。
「も~。落ちてきてくれれば何とかなるのに」
腕に矢が刺さってもレセトンベモンキーは気にすることなく、つらら石を片手から両手で強く握り、体を上下に動かす。すると、地面が揺れたかと思うと、レセトンベモンキーが落としたのと比べものにならないほどの数のつらら石や岩が落ちてきた。
つらら石と異なり、岩に鋭さはないが、地面に落ちると砕けて、その破片が襲ってくる。
岩と破片を避けると、避けた場所にシーフモンキーが待ち構えていた。
弓から戦斧に持ち替え、シーフモンキーに向かって振る。
しかし、岩やつらら石を回避する必要があるため、どうしても踏み込みが甘くなり、倒しきれない。倒そうと深入りすることなく、すぐにその場を離れる。
ヒルデがいた場所はすぐに岩が落ちてきて、倒しきれなかったシーフモンキーが下敷きになった。
岩が落ちてこなくなったので、天井を見るとつらら石はほとんどなくなっており、そのわずかのつらら石にレセトンベモンキーは片手でぶら下がっている。
攻撃が静まったのを確認したアッシュとヒルデは合流した。レセトンベモンキーの攻撃は収まったが、まだ生き残っているシーフモンキーはアッシュたちに襲いかかる。
シーフモンキーを攻撃しながら、お互いの状況を確認した。
「ヒルデさん、大丈夫か?」
「怪我はしてないけど、何アイツ。攻撃しようとしてもあんなに高いところじゃ、攻撃が届かないし、弓を当てても堪えてないし。おまけに攻撃が当たったら、癇癪起こしたみたいにして岩落とすし」
確かに、ヒルデの矢が当たってからレセトンベモンキーの攻撃が変わった。
癇癪を起こしたかはわからないが、攻撃を受けたことがきっかけであることは間違いない。
「でも、天井のボコってした尖った岩もなくなってるし、そのうちにアイツ、落ちてくるよね」
「いや、それはない」
地面に落ちてきさえすれば、倒すことが出来る。そう思ったヒルデがアッシュに問いかけるが、彼はそれを否定し、天井の方を向いた。ヒルデは攻撃の合間に天井を見上げる。
天井にほとんどなくなっていたつらら石は一つ、また一つとゆっくりと復活している。
「え? なんで戻ってんの」
「それがダンジョンだ」
ダンジョンは失った魔物や壊れた部位をダンジョンコアの魔力を使って復活させる。
なので、定期的に魔物を間引くことで魔力を消費させ、安定させることが出来るのだ。魔力が消費されることなく、ダンジョンコアの魔力が溜まり続けるとこうして暴走を起こす。
レセトンベモンキーが落とした岩が大量に落ちたことで、平らな地面の底が見えなくなってきている。もう一度同じ攻撃をされれば、今度は生き埋めになるかもしれない。
アッシュたちが入ってきた扉の前は岩が転がっている。扉が岩で埋まっていない今なら撤退することも出来るが、次に岩を落とされると今度は脱出することもできなくなるだろう。
つらら石が完全に復活すれば、レセトンベモンキーはまた同じ攻撃をしてくる。
ならば、復活する前に倒せばいいのだが、高い天井にぶら下がっているレセトンベモンキーにアッシュの攻撃は届かない。
「ヒルデさん、アイツを一撃で倒せないか?」
一撃で倒さなければその隙をついて岩を落としてくるかもしれない。レセトンベモンキーを一撃で倒すことが出来るとすれば、弓で攻撃できるヒルデだけだ。
「一撃、か。自信ないな。撤退して何か考える?」
シーフモンキーの攻撃を受け止めながらアッシュは思考を巡らせる。
やがて、一つの方法が思い浮かんだが、上手くいかないかもしれない。自分一人なら失敗しても死ぬのは自分だけだが、今はヒルデがいる。彼女を巻き込んでしまうと思うと、どうしてもためらってしまう。
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