63 レセトンベモンキー
ヒルデに届く前にアッシュが矢を斬る。すると、今度はアッシュを狙って矢を次々と放ってきた。最初の数本は斬り落とし、アッシュは矢を軽々と避けて駆ける。
彼が避けた矢は仲間であるはずのシーフモンキーに次々と当たる。確かに練度は高いが、アッシュを倒すことだけしか考えていないことからも全体の状況が見えているとは言えない。
見えているのなら、仲間がいる場所に矢を放つ訳がない。
弓を持つシーフモンキーが大きな鍾乳石に隠れてアッシュを狙っていると、後ろから声が聞こえた。
「ごめんね。君だけ仲間外れにしちゃって」
シーフモンキーが振り返ると戦斧を振り上げたヒルデの姿が見えた。逃げることもできず、弓を持つシーフモンキーは鍾乳石ごと彼女に倒された。
「矢に気がついていたんだろう?」
ヒルデほどの強者があの矢に気がつかない訳がない。彼女は気づいていながら矢に背を向けていたのだ。
「気づくよ、そりゃ。でも、アッシュ君ならどうにかしてくれるでしょ。実際何とかしてくれたし」
アッシュを信頼するヒルデの笑顔に呆れていいのか、彼にはわからなかった。
ヒルデの攻撃で数を減らすことが出来たが、シーフモンキーは攻撃を止めようとしない。
「しかし、妙だな」
「何が?」
「あまりにも敵が弱すぎる」
数が多いので倒しきるのに時間が掛かっているが、このダンジョンで出現したどの魔物よりも弱い。ダンジョンコアが暴走している最下層の魔物なのにそんなことがあるのかと戦いながら思っていると、大きな雄叫びが辺りにこだました。
声の方を向くと、いつの間にか大きな猿、レセトンベモンキーが両手につらら石を持って立っていた。レセトンベモンキーはアッシュを見つけると、手に持ったつらら石を投げてきた。アッシュは咄嗟に横に飛び、攻撃を回避する。つらら石は壁に当たり、深くえぐられた。
避けられたことがわかったレセトンベモンキーは手に持っていたもう一つのつらら石や鍾乳石を次々とアッシュに向かって投げる。先ほどの矢はどこを狙っているのか丸わかりで避けるのも容易かったが、レセトンベモンキーの投げるつらら石や鍾乳石は壁をえぐるほどの威力だ。
当たれば一溜まりもないというのもあるが、えぐれることで、壁の破片もこちらに向かって飛んでくる。投げられたつらら石や鍾乳石ほどではないが、厄介なことに変わりない。
「アッシュ君だけじゃなくて、僕とも遊んでよ」
アッシュに投げることに夢中になっているレセトンベモンキーにヒルデは戦斧を振る。
レセトンベモンキーはその巨体に似合わぬ俊敏さを持ってヒルデの攻撃を回避する。
躱されてもかまうことなく、ヒルデはもう一度戦斧をレセトンベモンキーに向かって振り下ろす。ヒルデの攻撃は当たらず、その姿は消えてしまった。
「え? 嘘。どこ行ったのさ」
「ヒルデさん、上だ」
アッシュの声で上を向くと、レセトンベモンキーが天井のつらら石に片手でぶら下がっていた。
「え? 何、ジャンプしてそこまで登ったの? ずるくない?」
レセトンベモンキーは片手でつらら石を握りつぶし、次々と下に落とす。
投げた時と違い、つらら石は重力によってスピードと威力を上げて襲いかかる。
何とか躱すが、上を見るためどうしても無防備になる瞬間が出来る。それを狙ってまだ残っているシーフモンキーがヒルデに斬り掛かってくる。
ヒルデが攻撃を受ける前にアッシュがシーフモンキーを倒し、自分もつらら石の攻撃を避ける。
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