06 信じていたのに
一度だけ、アメリアたちが受けた魔物の討伐依頼を行っているとアッシュが偶然、D級の魔物を倒したことがあった。
ギルドにもアッシュがソロで倒したと報告し、記録にも倒したという記述が刻まれた。
しかし、アッシュへの妬みを持つ冒険者たちにより、いつの間にかアメリアたちの成果を彼が横取りしたという噂が広まってしまった。
結局アッシュの魔物討伐の記録は取り消され、その魔物はアメリアたちが討伐したことになってしまった。
アッシュが正当に評価されるためにはソロで行わなければいけないと考え、彼が依頼を受けたり、魔物を討伐するときはソロで行い、アメリアたちは同行しないと全員で相談して決まった。
確かにアメリアたちの依頼にばかり同行しており、アッシュがソロで依頼を受けたり、魔物を討伐したりといった様子がないと思っていたが、それは自分たちが知らないだけだと思っていた。
何日かいなくなることもあったが、それはアメリアたちが知らないところで努力しているからだと思っていた。
「大方、努力しても君たちのように強くなれないのがわかって早々に諦めてしまったのではないか。そして、君たちが何も言わないのをいいことに今までズルズルときたのではないかね。
まぁ、私からすればそいつは君たちと一緒に戦いたい、強くなりたいという気概が全くないように思うが」
アメリアはそんなことないと思わず、すがる気持ちでアッシュを見た。彼なら否定してくれるはずだと信じて。
しかし、アッシュは図星なのか、肩を震わせてうつむいていた。その姿はまるで、叱られて泣き出す前の子供のように見えた。
そんなアッシュの姿を見て、信じていた何かが壊れてしまった気がした。
ギルドの依頼を受けない、魔物の討伐の実績もない。それではアッシュがずっとE級のままなのも納得だ。
依頼を受けなくとも強くなるためにアッシュが努力してくれていると分かれば、アメリアたちも彼の成長をまだ待てるだろう。
今考えれば、アッシュはパーティーを組んでから剣の稽古をしている様子がなかった。
幼いころは話しかけるアメリアにかまうことなく、冒険者になるといって木の棒を振っていたというのに。
幼いころに努力している姿を知っているからこそ、今のアッシュはアメリアたちに並び立つように強くなろうという努力をせずに、怠けているようにしか見えなくなった。
何もせずサボってばかりいては強くなれるわけなどないのに。
ほかの二人も同じように感じていたのだろう。何も言えないでいる。
「異論はないようだね」
満足そうにマテオは笑った。
「待ってください。私は反対だと前にも言ったはずです」
ミミーが立ち上がってマテオに抗議をした。
アメリアのパーティーにほかの前衛を入れてみてはどうかという話は前からあった。
そのたび、ミミーが反対し、アメリアたちも彼女と同じ意見だったために実現していなかっただけだ。
彼女は時折、冒険者にこの人とパーティーを組んだほうがいいと勧めることがある。ミミーの曰く、自分の勘はよく当たり、そうしたほうがいいと感じたから勧めているらしい。
事実、彼女の勧めでパーティーを組んだ全員が功績をあげている。それは彼女たち『四本の白きバラ』もそうだ。
「アッシュさんは強くなります。それにほかの人を入れると『四本の白きバラ』は何かよくないことが起きます」
ミミーは必死に訴える。彼女の勘が告げているのだ、間違いないと。
そんな彼女を馬鹿にしたようにマテオは自分のひげをいじっている。
「前衛を加入することでアメリア君の負担も減り、後衛二人も安心して自分の役割を熟すことができる。それのどこがダメなのだね」
「ですが、私の勘が言っているんです」
「しかし、彼女たちはそうは思っていないようだよ。ほら」
マテオに促されてミミーはアメリアたちを見た。
「ありがとう、ミミー」
「アメリアさん?」
アメリアは諦めたように微笑んでいた。そんなアメリアの表情は見たことがなく、ミミーは戸惑った。
「私は前衛としてみんなの命を預かってる。だから、倒れるわけにはいかない、
頑張らなきゃって、いつも思ってた。
でもね、ギルドマスターに言われて気が付いた。私が守るのはアッシュだけじゃなくて、ミントとマリーナもなんだって。
みんなを守るためには、いつまでもアッシュを待っていられない」
アメリアだって本当はわかっていた。だが、気づかぬふりをしていただけだ。
今までは何とかなっていたが、B級に上がってから討伐を依頼される魔物が強くなり、誰でもいいからもう一人前衛がいてくれればと何度も思った。
しかし、そんなことを思うのはアッシュを信じていないことになる。アッシュだって強くなろうと頑張っている。そう思い、あと少し、もう少ししたら彼が前衛として自分たちと一緒に戦ってくれると自分に言い聞かせてきた。
だが、アッシュは強くなるための努力なんてしていなかった。ポーターとしては頑張っていたのかもしれないが、それはポーターの専門を雇えばいいだけの話だ。アッシュでなければということはない。
アメリアの隣で一緒に戦うのはアッシュしかいないと思っていたのに。
――アッシュを信じていたのに。
アメリアは知らずにうつむき、こぶしを強く握っていた。
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