59 ダークエルフ
アッシュの予想通り、先ほどよりも大きなシェイドスネイクが姿を現した。倒れているシェイドスネイクの方を向き、アッシュを睨み付ける。
睨み合っていると横からヒルデが飛び出し、戦斧をシェイドスネイクに向けて薙ぎ払う。
アッシュしか見えていなかったシェイドスネイクは突然のヒルデの攻撃を避けることが出来ず、胴体を切り裂かれる。
しかし、シェイドスネイクは頭を下げただけで倒れることなかった。
重い頭を上げ、攻撃した人間を睨み付けようとするが、姿が見えない。どこにいるのかと探していると、頭に衝撃が走った。
シェイドスネイクの頭より高く飛んだヒルデがそこに目がけて戦斧を振り下ろしたのだ。
重量のある戦斧は重力に従い、勢いよくシェイドスネイクに当たり、頭を真っ二つにした。
地面に降り立ったヒルデは戦斧を持ったまま胸を張る。
「これで、どうだ? すごいでしょう」
頭を真っ二つにされたシェイドスネイクを見て、アッシュは初めて魔物に同情し、手を合わせた。
「…可哀想に」
「何でだよ。襲ってきたそっちが悪いんじゃん」
ヒルデの言うことが正しいのはわかっているが、どうしてもそう言いたくなってしまう。
ペンダントにシェイドスネイクを収納して先を急ぐ。安全地帯までもう少しだ。
魔力の流れが不自然に途切れているところを見つけた。そこを抜けると木々が生い茂る景色は変わりないが、纏わり付くような魔力が無くなった。安全地帯に入ったのだ。
「あれ、ここにいるとさっきまでの変な魔力、感じないね」
「それが安全地帯の証拠だな」
日が完全に落ちる前に着くことが出来たことに安堵のため息を吐く。
「ここで夜を過ごそうと思うが、ヒルデさんはテントとか野営で必要な物は持ってる?」
見たところ持っているのは戦斧だけで、ヒルデは他に何も持っていないようだ。
いつの間にか弓も手にしていないのでアッシュは疑問に思った。人差し指をチッチと振って自慢気な顔をしてヒルデは答える。
「街から街へ、国から国へと旅するダークエルフを舐めてもらっちゃ困るよ」
何もないところに手を伸ばし、テントと思われる大きな布をヒルデは取り出した。
おそらく空間魔法を使って必要なものを収納しているのだろう。アッシュのしているペンダントと同じ仕組みだが、空間魔法は習得するのが難しいといわれている。
なんでもないような顔をして使っているところは、さすがはエルフというところだろう。
ダークエルフは魔に落ちたエルフのなれの果てと侮蔑的に言われていた時代もあったそうだが、それは百年以上も前のことで、それは間違いであると今は広く知られている。
閉塞的な森の生活に嫌気が差したエルフが外の世界に憧れ、飛び出したのがダークエルフの始まりだと言われている。
外に飛び出し、しばらくすると日に焼けて今の姿になったらしい。
だが、森の外に出たエルフが全て日に焼けるという訳ではない。実際、ミントは故郷である森から出てしばらく経つと言っていたが日に焼けている様子はないので、そこは詳しくわからない。
はっきりと言えるのは、森という故郷があるエルフと違い、ダークエルフは特定の故郷を持たないということだ。旅を楽しみ、そして自らが故郷と思える場所を探すのが、ダークエルフという種族なのだ。
外の世界に憧れて飛び出したというところにアッシュは以前からダークエルフに親近感を抱いていた。
もし、会うことが出来たら話し合ってみたいと思っていた。だが、それは今ではないだろう。
「じゃ、野営の準備するか。何か手伝えることがあったら言ってくれ」
「了~解。アッシュ君も困ったことがあったら言ってね」
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