50 知られざるダンジョン
「詳しくっていわれても聞き流してたからなぁ。
たしか、魔物に武器を盗まれて、慌てて追いかけたらモンスターハウスに誘導されて死にかけたからも二度と行くもんかって言ってたかな。他はちょっと覚えてないな」
申し訳なさそうにする店員にアッシュが礼を言ったとき、他の客に呼ばれたため、店員は彼の側を離れた。注文した品をつまみながらアッシュは思考を巡らす。
ダンジョンの存在を知っている冒険者が報告しないのはダンジョンで採れる資源の独占と面倒な手間を省くためだろう。
通常、ダンジョンに潜る際はギルドに書類を提出する必要がある。これはダンジョンに潜る人数などをギルドが把握するためである。
把握することで行方不明の冒険者がいるかすぐにわかるし、ダンジョンに潜った冒険者がギルドに持ってくる薬草などの資源や魔物などから何が採れるか正確に知ることが出来るうえに、スタンピードなどのダンジョンの異変がすぐわかる。
しかし、冒険者からしたらメンバー記入などの単純なことであっても、書類を書くことは手間であり、書いたとしてもその書類が処理されるまで待たさせることになる。
ギルドにとっては大事なことであっても冒険者としては面倒でしかないのである。ダンジョンを発見した冒険者たちはこれを嫌って報告していないのだろう。
ブロディたちはダンジョンの存在を知らず、初心者狩りの冒険者は森に装備を隠したと思っているようだった。
おそらく、彼らにとってダンジョンを発見したら報告するのが義務なので、それを怠るような者がいるなど思ってもいないのではないか。そのため、今まで彼らからダンジョンという単語を聞いたとしてもただの与太話として真面目に取り合っていなかったのだろう。
だが、実際、ダンジョンに行った者がいると店員は言っていた。ただの与太話としてもう無視はできない。
しかも、ダンジョンが長年、報告されず放置されているとしたら危険だ。
ダンジョンは冒険者が中にいる魔物を間引きすることで安定する。それを怠ればダンジョンコアの魔力が暴走し、考えられないほど強力な魔物が生み出されたり、ダンジョンの中にいる魔物が外にまで溢れ出すことになる。これがスタンピードの原因と言われている。
そういう事情があるため、発見したら報告の義務があり、ギルドが責任を持って管理するのだ。
まだ、ダンジョンがあるか、あったとしても本当にダンジョンに隠しているのかわからないが、ブロディに連絡する必要があるだろう。
アッシュは席を立ち、料金を店員に渡して、店を出た。もう日は暮れて辺りは暗くなっている。連絡するにしても落ちついた場所でする方がいいだろうと考え、道行く人に宿を聞いてそこへ向かった。
宿には空きがあり、一人部屋を取ることが出来た。一人部屋と言ってもベッドと小さな机、椅子しかない小さな部屋だが、相部屋でなくて良かったと椅子に腰掛けて人心地つく。
しかし、ゆっくりしてはいられない。アッシュは急いでブロディから貰った紙を取り出して、初心者狩りの冒険者がダンジョンと言っていたこと、実際に行ったという者がいることからも報告されていないダンジョンが存在する可能性があること、そのダンジョンに装備を隠している可能性が高いこと、また長年放置されていたとしたら危険なダンジョンになっているかもしれないことを書いた。
アッシュが書き終わると紙は淡く光り、うっすらあった魔方陣の模様が消えていた。これでブロディが持っている紙に連絡がいったのだろう。
椅子に座ったまま背を伸ばし、天井を見る。騎士の後を付けて爆竹を鳴らすだけだと思っていたのに、厄介なことになりそうだとアッシュはため息を吐いた。
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