05 何もしていない
ギルドに着くとすぐにギルドマスターの部屋に通された。そこには『四本の白きバラ』の担当の受付係になっているミミーのほかに見たこともない青年がいた。男はどこか洗練された雰囲気をまとっており、少なくともこの街では見たことがなかった。
「おぉ、よく来てくれたな。わがギルド期待の乙女たちよ」
大きな腹を揺らしながら立ち上がったマテオは手を広げて歓迎する。パーティーの結成当初にさんざん嫌味を言っていたとは思えないセリフだ。
「それで、なぜ私たちを呼んだのでしょうか」
大人の対応と自分に言い聞かせてアメリアが代表して質問した。
「まぁ、まぁ、座りたまえ」
マテオは自分が座っている反対の三人がけのソファに座るように勧めてくる。そう、三人だ。そこにアッシュは入っていない。
いくら彼女たちのパーティーメンバーであろうとも自分に大した利益を生まないE級冒険者などマテオにとっては存在しないも同然だ。
アメリアたちはアッシュの方を見る。彼は何も言わずに三人に座るように目で答えた。マテオにそのような対応をされるのはいつものことなのだ。今更気にしてもしょうがない。
アメリアたちは気まずそうにソファに座った。アメリアたちが座ると立っているのはアッシュだけになった。そんなアッシュをミミーは心配そうに見ていた。
「それで、話とは、彼のことなんだ」
マテオに紹介された青年は立ち上がり胸に手を当て一礼をする。それはまるで騎士が姫君にする礼のように美しかった。
「キースといいます。少し前まで王都でパーティーを組んでいたのですが、諸事情によりパーティーが解散してしまい、今はソロです」
「キース君は王都で天才といわれている剣士なんだ。わずか三年でB級冒険者に上り詰めた強者だ」
マテオはまるで自分のことのように自慢している。
ちなみに、アメリアとミントはB級になるまで四年かかっている。実力がある彼女たちでさえ四年かかったのだ。二人よりも一年も早く上がったということは、このキースという青年は相当な実力を持っているのだろうと思われる。
しかし、その彼とアメリアたちと何が関係しているのだろうか。アメリアは嫌な予感がした。
「それでだね、キース君を君たちのパーティーに加入してはどうだね」
「え?」
アメリアだけでなくミントもマリーナも驚いた顔をしている。アッシュだけはうつむいていた。長い髪で顔が隠れ、何を考えているのかよくわからなかった。
「前から言っていたらしいじゃないか。前衛がもう一人いれば楽になるのにと」
「それは、アッシュが前衛として私たちと一緒にという意味です。ほかの人に加入してほしいなんて一言も、言っていないです」
正直にいえば実力のあるアメリアでも後衛であるミントやマリーナを守りながら戦うのは大変だった。高ランクな討伐の依頼などは特にである。
しかし、アメリアたちはほかの前衛が加入してほしいとは思っていない。いつか、アッシュが彼女たちと肩を並べて戦ってくれる日を待っているのだ。
アッシュでなければ意味がない。
「で、そこのE級が君たちと一緒に戦えるのはいつなのかね。前衛で戦うことを希望しているらしいが、何年もポーターの真似事しかできないそうじゃないか。
そんなことじゃ、何年待っても君たちと実力の差は埋まらないんじゃないかね」
「そ、それは」
「しかも、パーティーを結成してから、そいつがソロで依頼を受けたという事実はない。
また、ソロで魔物を討伐したと言うことも記録されていない。君たちと一緒に戦いたいと言うなら、何故なにもしないのだね」
「え?」
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