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49 酔っ払いの戯れ言

 ブロディが御者に話して、アッシュはミバルの近くで下ろしてもらった。

 馬車の姿が見えなくなると人の気配がないことを確認して仮面を外す。

 仮面を着けているとどうしても目立ってしまう。ならば、アッシュとして行動した方がいい。


 ここからミバルまで歩いて一時間も掛からないらしいが、検問もあるので早く行った方がいい。アッシュが道なりに急いで向かうと、大きな壁と城門が見えてきた。

 日はまだ傾いていないので間に合ったのだろう。


 検問の列にアッシュも並び、程なくして街に入ることができたが、これからどうしようかと街を歩いていると店の看板が目に入った。それは初心者狩りの冒険者が呑み明かしているという酒場だった。騒がしい声が外にまで漏れている。

 ブロディから話を聞いたときから気になっていたことがある。それを解消するために自分でも調べるべきだろうと思い、アッシュは店に入った。


 アッシュが入るとすぐに店員に声を掛けられた。


「お兄さん、一人かい? カウンターならすぐに案内出来るけど」


 店員に頷くとすぐにカウンターに案内される。

 そのときにうるさく騒ぐ集団が目についた。武器を装備している三人組が中心で、他は一般人のようで、三人に同調するように騒ぎ、酒を呑んでいる。おそらく、中心にいる三人が初心者狩りの冒険者だろう。

 その側に騒がしい集団をアッシュと同じように観察している二人組の男がいた。

 彼らがドーナ領か、シヴァン領の騎士だろう。私服で店の雰囲気に溶け込んでいるが、探るような目を見れば、ただの客ではないことはすぐにわかる。


 運のいいことに初心者狩りの冒険者と近い席に案内された。酒は頼まず、適当なつまみを注文する。注文した品が運ばれてくる間、彼らの声に耳を傾ける。


「でも、お高くとまってると思わねぇ、朝、ギルドで会った女」

「だよな。冒険者登録してたから初心者だろう?

 せっかく俺たちがダンジョンに連れてって色々教えてやろうって声掛けてやったのに断りやがってよぉ」

「しかも、あの小うるさい職員に言われて声を掛けたんじゃなくて、俺たちの純粋な厚意だぜ。それを断るとか生意気じゃね?」


 彼ら言葉を聞いて、一般人であろう人物が杯を持ったまま大きく笑う。


「お前ら、ダンジョンって。近くにそんなもんないだろう」

「ダンジョンに連れてくって言ってどこに連れて行こうとしたんだよ。そこの宿屋か?」

「そもそもダンジョンがあったらこの街、もっと発展してるだろうが。嘘言うんじゃねぇよ」


 酒を呑んで気が大きくなったのだろう、聞き耳をしなくてもアッシュの耳に下品な笑い声と会話が聞こえてくる。

 何か情報は得られないだろうかと思い、我慢して彼らの会話を聞くが、それ以降は眉をひそめるような会話ばかりだ。

 だが、ダンジョンという言葉がアッシュは気になった。


 ダンジョンとは源であるダンジョンコアによって生み出された魔物と魔力が満ちた場所だ。

 貴重な資源や魔物の素材、攻略を目的とした冒険者が大勢訪れるためダンジョンがある街は大きく発展している。


 また、常識では考えられないような世界がダンジョンコアによって作られ、恐れられると同時に人々を魅了する。冒険家カーステンも魅了された一人だが、いくら入ってみたいと思ってもダンジョンなのでどうしても魔物が出現する。なので、魔物と戦う力がない彼はダンジョンには、ほとんど入ることが出来なかった。


 さまざまな恩恵を与えるダンジョンだが、時にスタンピードが起こる危険もあるので、ダンジョンを発見したら、発見者は領主、またはギルドに報告する義務があるのだ。報告を受けたら、領主から許可をもらい、ギルドが責任を持って管理する。ミバルの街にダンジョンがあれば、ジョージや伯爵から説明があると思うのだが、それはなかった。

 初心者狩りの冒険者たちと一緒に呑んでいる、この街に住んでいるのであろう周りの一般人も知らない様子だ。

 ただの酔っ払いの戯れ言かと思うが、何か気になる。


「あの連中、うるさいだろう?」


 悩んでいるアッシュのもとに注文の品を届けに店員が側に来ていた。彼が連中を気にするような素振りを見せたので声を掛けたのだろう。


「アイツら、この前も明け方まで騒いで、しかも支払いは後日払うって言って着け払い。

 本当に後から全額払ったけど、うるさいし、他の客に絡む上に夜通し騒いで迷惑この上なかったよ。アイツらに絡まれたくないから、みんな店に入ってもすぐに帰るからこっちは商売あがったりだよ。まぁ、お客さんも絡まれる前にすぐに帰ったほうがいいよ」


 絡まれて顔を覚えられたら面倒だなと考え、店員に微笑んだ。


「忠告、ありがとうございます。俺が気になったのは彼らがダンジョンと言ったからです。

 俺の記憶ではこの辺りにダンジョンはなかったはずだと思うのですが」


 店員は連中を見て呆れたようなため息をついた。


「あぁ、ダンジョンなんてないよ。酔っ払いの言うことなんて…。

 いや、何年か前にこの近くのダンジョンに行ったっていう奴らがいたな。何を馬鹿なことを言ってるんだと思って聞き流していたが」


「詳しく聞いてもいいですか?」


 実は最初から疑問だったのだ。初心者狩りの冒険者が奪った装備を森に隠しているらしいと聞いた時に、何故そんな所に隠すのだろうと思っていた。

 森は冒険者以外の不特定多数の人間も出入りしている。下手をしたら装備を隠している姿を見られるかもしれない。そんなところに隠すものだろうかと思ったのだ。


 しかし、知られていないダンジョンに隠しているのならそれも納得だ。知られていないダンジョンならそもそも来る人間が少ない。来たとしてもダンジョンの存在を知る数少ない冒険者ぐらいだろう。冒険者なら目的は魔物の討伐、もしくはダンジョン攻略だ。

 そちらに夢中になり、隠してある装備をたまたま見つける可能性は低いだろう。


 もし万が一、初心者狩りの冒険者が装備を隠している所を誰かに見られたとしてもダンジョンで行方不明になった冒険者の装備を見つけたのだと言い訳が出来る。

 彼らはそれも狙ってダンジョンに隠しているのではないかと考えたのだ。








楽しんで頂けたなら幸いです。

よろしければ評価の方もよろしくお願いします。

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