45 奪還の方法
ほっと息を吐き、微笑むと、伯爵は二人に座るようにと言い、自分もソファに腰を下ろすが、ブロディは伯爵の背後で立っている。ロバートはアッシュとジョージに新しい紅茶を用意していた。相変わらずブロディはアッシュを警戒するように見ている。
「急ぎの用と聞きましたが、動きがあったのでしょうか?」
ジョージは伯爵とこの数ヶ月相談を受けていたが、ギルドまで迎えが来たのは初めてだ。
それだけ急を要することがあるのだろうと思い、ジョージは伯爵に尋ねた。
彼の問いに顔を暗くして、手を組み、伯爵は頷いた。
「先ほど見張っていた騎士から連絡があった。例の職員と冒険者たちが接触したらしい。
明日の昼頃には隠し場所に向かうだろう」
「何故、明日の昼頃だとわかるのでしょう」
伯爵がブロディに目配せをすると承知したように頷くと話し始めた。
「前回、例の職員と接触したあと、冒険者たちは酒場に行き、来ている客全員に大金が入るので奢ると言って騒ぎ、明け方まで呑み明かしていたそうです。そして、酒が少し抜けた昼過ぎに隠し場所があると思われる森に行ったのが目撃されています。
今回も前回と同じく酒場に行き、騒いでいるようなので間違いないでしょう」
今はまだ昼前だ。つまり、冒険者が前回と同じ行動をすると考えるともう一日しか時間がない。しかも、冒険者たちがいるミバルの街はシヴァン領とドーナ領の境界線に近い場所にあるとはいえ、馬車で急いでも着くのは夜になるだろう。
城門は日が落ちると閉まるので街に入れるのは朝方になってしまう。
「移動の時間を考えるともう時間がないように思うのですが」
アッシュの疑問に伯爵は頷く。
「移動に関しては心配いらないよ。馬車を引くのは我が家自慢のレッドホースだ。
昼過ぎにここを出ても、夕方には着く。ドーナ男爵には話を通しているから、城門の検問も素通りできる」
レッドホースは普通の馬と比べものにならないぐらいの早いスピードとスタミナを誇る魔物だ。
魔物は全てが脅威と言うわけではなく、上手く人間と共存出来るものがいる。
レッドホースはまさしくそれで、彼らが満足する世話を出来る者にだけ懐き、力を貸す魔物だ。
しかし、レッドホースによって今日中に街に入れるとはいえ、時間がないことには変わりない。
「それで、家宝を秘密裏に奪還するのにブランク君が協力してくれると聞いているのだが」
「はい。私が考えていますのは、隠し場所に冒険者が着き、騎士が彼らを確保した瞬間にブランクが何か騒ぎを起こせばそちらに目が向くので、その間に取り返せば良いのではと」
「何かとは、具体的に何かな」
そこまで話し合っていなかったのでジョージは言葉に詰まり、伯爵に見えないようにアッシュに肘打ちをした。代わりに何か答えろということだろう。
方法はこちらに丸投げかと呆れたが、文句を飲み込みアッシュは考える。
「そう、ですね。爆竹はどうでしょう。突然、大きな音がしたら驚きますし、当然、辺りを警戒します。そのときにブロディ殿にはドーナ領の騎士に自分の側に来て守りを固めるように指示し、シヴァン領の騎士には冒険者の安全と証拠の確保を命じ、そのときに気づかれないように家宝を取り戻すというのはどうでしょう」
口に手を当て、考えるようにして伯爵が答えた。
「なるほど、予想もつかぬ状況に陥ったとき、人は冷静でいられなくなる。そこに指示が出されたら、なんの疑問も抱かずに従ってしまうだろう。
うん、いい方法だと思う」
楽しんで頂けたなら幸いです。
よろしければ評価の方もよろしくお願いします。