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44 訝しむ目

 馬車は程なくして、シヴァン伯爵家につき、応接室に案内された。

 主人を呼んでくるのでお待ちくださいと言い、ロバートは退室した。応接室にある備品はセンスが良く、ソファも座り心地が良い。貴族によくあるような富を主張するような物はここには置いていない。エントランスや廊下には高価な絵画などが飾ってあったが、華美ではなく、屋敷と調和していた。

 屋敷の内装は当主である伯爵の人柄を表すようで、ジョージの言うとおり、まともで真面目な貴族なのだろう。

 ロバートが淹れてくれた紅茶をジョージと飲んでいるとドアがノックされた。


「伯爵がお越しになりました。開けてもよろしいでしょうか」


 二人は立ち上がり、入室の返事をした。入ってきたのはロバートと彼より幾分か若いキッチリとした格好をした男性、そして、剣を携えた男性だった。

 おそらく、キッチリとした格好の男性がシヴァン伯爵で、剣を携えた男性はシヴァン伯爵家の騎士なのだろう。

 伯爵の姿を確認するとアッシュとジョージは頭を下げた。


「頭を上げてください。こちらがお願いする立場なのですから」


 顔を上げると伯爵が微笑んでいた。

 しかし、疲労の色が濃い。自分の子供がしでかしたことに心労が溜まっているのだろう。


「まず、初めまして、ブランク君。シヴァン伯爵当主エドガーだ。私の後ろにいる騎士が我が家の騎士団長ブロディだ。

 前々から直接礼を言いたいと思っていたが、なかなか時間が合わなくてね。

 このような形になってしまったが、会えて嬉しいよ。魔物討伐の件では世話になったね」


 手を差し出し、伯爵はアッシュに握手を求めてきた。

 嬉しいと言うのは本心だろう。伯爵の目はアッシュのことを見下したりといったものはなかった。気位の高い貴族なら冒険者に触ることさえ拒否するだろう。


 何故なら、冒険者には平民が多いからだ。貴族で腕に自信があるという者は騎士として他家の貴族に仕えるのが当たり前だが、騎士は規律や訓練が厳しいため、そのようなものがなく、自由に見える冒険者に憧れ、冒険者となる貴族もいるがごくわずかだ。


 どうやら、伯爵は平民だからと蔑むことはしない人物のようだ。胸を撫で下ろし、改めてアッシュは伯爵の手を握った。


「こちらこそ、お目にかかれて光栄です、伯爵様。仮面をしたままで無礼なのは承知していますが、お許しください」


 パーティーから脱退できたとはいえ、ブランクがアッシュだとわかるとアメリアたちの耳に入るかも知れない。

 そうすれば、母の言う通り、再びアメリアに執着されるかもしれない。執着され、自由を奪われれば、また冒険が出来なくなるだろう。アッシュにとってはそれが一番の恐怖だ。


「ああ、ジョージから聞いているよ。なにやら事情があるとか。

 ジョージが身元は保証すると言っているし、なにより街を救った君に仮面を外せなど失礼なことは言わないよ」


 気がつかれないようにアッシュは安堵のため息を吐いた。仮面をしたままというのは無礼だとアッシュも自覚があるので怒鳴られる覚悟をしていたが、杞憂だったようだ。


 だが、ブロディは納得いかないようでこちらを睨み付けている。

 その視線に気がついたジョージがアッシュをかばうように前に出て、ブロディを睨み返した。


「こいつの素顔やらは明かせませんが、私が信頼する数少ない冒険者です。

 だから、そう睨み付けるのは止めてもらえませんか、騎士団長殿」


「!!ブロディ」


 伯爵に叱られ、鋭い視線は幾分か和らいだが、ブロディはまだ納得がいかないと言う顔をしていた。


「しかし、エドガー様、私は騎士です。騎士として素性のわからぬ輩が主の目の前にいるのに警戒するなと言われても無理な話です」


 伯爵は呆れたようにため息を漏らし、額に手を当てうなだれる。


「ブロディ。私がいいと言っているのだ、口が過ぎるぞ」


 主の言葉にブロディは悔しそうに唇を噛んだ。


「すまない。いくらジョージが保証すると言っても納得しなくてね。

 しかし、彼は私が一番信頼する騎士だ。事がことだけにこの場にいる人間以外は、冒険者の見張りをさせている騎士の一人にしか事情を話していないのだ」


「いえ、素性のわからぬ者を警戒するのは当然のことです。どうか彼を咎めないでください」


 知らぬうちに恨みを買うことが多いのが貴族だ。伯爵に近づく人間を警戒するのは当たり前で、ましてや顔を隠す者など警戒して当然だろう。


「そう言ってくれて安心したよ」








楽しんで頂けたなら幸いです。

よろしければ評価の方もよろしくお願いします。

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