41 初心者狩り
「初心者狩りって、そんなことをする奴いるんですか?」
初心者狩りとは名の通り、初心者冒険者を狙い、親切を装って騙し、装備や所持金などを奪う輩のことだ。
しかし、相手は初心者冒険者。奪ったとしても装備も所持金も高が知れている。
当然であるが、見つかれば捕まり、牢に入れられる。
加害者が冒険者の場合、冒険者としての品位を落としたとして冒険者の資格も失うことになる。
つまり、メリットがほぼなく、デメリットだけが大きいので誰もしないのだ。
「隣領であるドーナ領、ミバルの街のギルドで横行しているらしい。
しかも、狙うのは、決まって裕福な貴族や商人の息子だ」
受け継ぐ領地や商会のない次男や三男などは成人後に家を出るため、自分で生きる方法を見つけなければならない。冒険者になるというのも彼らの生きる道の一つだ。
しかし、貧相な装備で子供を送り出すと、彼らの生家は金に困っているのではないかと言われかねない。
なので、裕福な貴族や商人は旅立つ子供に立派な装備品、豊かな資金などを餞として贈り、他人に見栄を張るのだ。
だが、装備は命に関わる大切な物なので、初期装備にあり金をはたいて、いい装備を買ったことで資金に乏しい平民なども珍しくなし、立派な装備に見えるだけの安物を装備している貴族や商人の息子もいる。
挙動から初心者であることはすぐにわかるが、立派な装備を持っている初心者冒険者の全てが貴族や商人の息子なのかというと、必ずしもそうとは言えない。
だが、初心者狩りは裕福な貴族や商人の息子しか狙わない。
「頭が痛い話だが、ギルドの職員が冒険者と組んで裕福な貴族や商人の息子だけを狙ってるんだ」
まず、職員が冒険者の登録をするときに色々聞き出して裕福な貴族や商人の息子だと当たりを付けると、登録するのに装備を確認する必要があるなどと言って価値がある物か判断する。
次に職員が冒険者に合図し、当たりを付けた初心者に冒険者が親切を装って人気のない所まで誘導し、装備や所持金を奪い取ると言う手口のようだ。
「その職員が独自の売買のルートを持ってるらしくて、分け前としては所持金の八割、装備の売り上げ金の三割が冒険者の取り分だとよ。
すぐに売り払わずに、冒険者が奪い取った装備をどこかに隠して、売買の目処が立ったら連絡を取り合って受け渡すんだと」
「でも、良く気がつきましたね。
貴族や商人なら騙されて装備や所持金を奪われたなんて口が裂けても言わない気がしますが」
騙されたなど嘘を見抜けぬ愚か者と周りに思われることを避け、貴族や商人などは特に口をつぐむだろう。
「シヴァン領の騎士が不正取引のルートを追ってる時に気づいたらしくてな。証拠は揃ってるらしいが、あとは奪われた装備がどこにあるかだけがわからない。
だから、常に職員と冒険者を見張っておき、奪い取った装備の隠し場所まで尾行して、そこを現行犯で拘束するんだと。
書類を溜めてた言い訳をするなら、ギルドの職員が関係することだから相談したいと、この数ヶ月の間、伯爵とたびたび会ってたからだ。他の職員にはまだ言えねぇけどな」
「騎士が冒険者を尾行する理由はわかりましたが、何故、騒ぎを起こさなければいけないんですか」
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