31 引き継ぎ作業
ミントはまだ涙が止まらず、アメリアも暗い顔をしている。二人の心境を鑑みてキースはマリーナに頼んだ。
「マリーナ、アメリアとミントを連れて先に拠点に帰ってくれるかな」
「それはいいですが、キースさんはどうするのですか?」
「パーティーの事務仕事とかアッシュくんが主体でしてくれていたからね。引き継ぎのために色々聞いておかなければいけないから、ここに残るよ」
マリーナはうなずくとアメリアとミントを連れて部屋を後にした。ドアが閉まったのを確認するとアッシュが自分の鞄からポーションなどを机の上に並べた。
「これはパーティーの資金で買った物なのでお返しします。他にパーティーとして買った備品は拠点の倉庫にあるので確認してください。
出納帳も拠点にありますが、書き方は覚えていますか?」
「うん、僕が入ってすぐにアッシュ君に教えてもらったね。覚えてるし、何度も書いたから大丈夫だよ」
お金のことなので間違いがあってはならないと資金の管理や出納帳の記載方法などはパーティー全員で覚えるようにして、主体はアッシュだが、一人だけが管理しないようにしている。
実際、キースがパーティーに入ってすぐアッシュに教えてもらい、何度か書いた。
パーティーの事務仕事などパーティーのポーターとして、自分が行っていたことをアッシュはキースに伝えた。説明にキースは相づちを打って聞き入る。
「わからなければやり方を書いてある紙を拠点の執務室に置いているのでそちらを見てください。それを見ていただければ問題はないかと思います。
…あと」
アッシュは机の上に袋を置く。置いたときに金属がぶつかるような音がした。
「これは俺がパーティーに入ってから受け取っていた報酬です。全額お返しします」
音からしてもかなりの額であることがうかがえる。袋をアッシュの方に押し返してキースは首を振った。
「これは君の仕事の正当な報酬だ。受け取れないよ」
キースは説得するが、アッシュは頑として考えを変えなかった。
「ソロとして活動していたときの蓄えもまだあります。
それに、手元に何か残れば、すがってしまうかもしれないので」
脱退したとはいえ、パーティーでの思い出が蘇る物があると決意が揺らいでしまうのだろう。アッシュの覚悟を感じ、キースは納得した。
「わかった。これはパーティーの資金として大切に使わせてもらうね。
それで、他に何か僕に言いたいことはないかい」
他にと言われ、アッシュは一瞬呆けてしまった。引き継ぎのために伝えることは全て伝えたつもりだ。
他にと考え、ひとつだけキースに言いたかったことがあったことを思い出した。
「それでは言わせてもらいます。
――キースさん、ありがとうございました。あなたに出会えた幸福に感謝します」
アッシュはキースに向かって深く頭を下げた。
しかし、しばらく待ってもキースから何も返事がなかった。頭を下げたまま首をかしげるとアッシュの耳に大きなため息が聞こえた。
「はぁぁ、最後までいい子ちゃんで面白くねぇの」
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