29 みんなに認められる冒険者
「もしかして君は、アメリアたちが軽々倒しているのを見て、その程度の魔物なら自分でも倒せると思ったんじゃないか。
そして、アメリアたちが打ち漏らし、逃げようとしている魔物を見つけて、手負いの魔物なら確実に倒せると思い、アメリアたちに何も言わず、勇み足で魔物を倒そうとしたが、武器がないことに気がつき、仕方がなく、解体用のナイフで戦った、こんな所かな」
キースの言葉を受けてもアッシュは正面を向いたまま口を開こうとしない。
沈黙が肯定であると判断し、キースは続けてアッシュに問いかける。
「倒せたから良かったが、そうじゃなかったら、どうなっていたと思う?
逃げようとしていた所を攻撃されたことで、我を忘れて暴れるかもしれない。
D級とはいえ、手負いの魔物の決死の攻撃だ。アメリアたちだって無傷ではいられなかっただろう。
ポーターなら、アメリアたちに報告し、意見を仰ぐべきだったんじゃないかな。
間違っても倒そうと考えるのはポーターとしての行動じゃない」
討伐依頼を終えたと気を抜いているときに突撃でもされれば、格下の攻撃とはいえ、キースの言うとおり無傷ではすまないだろう。もしかしたら、死んでいた可能性だってある。
アッシュをかばいたい気持ちがあるが、彼の勝手な行動で自分たちが危険な目に合っていたかもしれないと思うと、何も言えなくなった。
「それに、囮になったときも本当に僕たちを逃がすためだったのかな。
あれだって、ブラックウルフぐらい自分も倒せると思って、飛び出したんじゃないのかな」
キースの言葉にアメリアは目を見開く。
あの言葉が嘘ではないと信じたい。何よりあのブラックウルフたちを前に囮になったアッシュの勇気を汚されたくなくて、アメリアはキースに訴える。
「それは違うわ、キース。だって、アッシュは何かあれば囮になって私たちを逃がすと、私に言ったもの」
アメリアの訴えにキースは穏やかな顔で頷いた。キースも本気で言っていたわけではなく、あくまで可能性として言ったのだと表情でわかった。
「わかってるよ。でも、アッシュ君がポーターとしてではなく、冒険者として勝手な行動したことは変わらない。
今まではアッシュ君が勝手な行動をしても僕たちの力でフォローできたかもしれない。
でも、これから先、ブラックウルフより強い魔物と戦うことになったときに、戦う力のない彼の勝手な行動で、パーティーが全滅することもありえる」
ブラックウルフよりも強い魔物と聞いてアメリアたちは息を呑んだ。
ブラックウルフでも撤退を考えるほどの相手だったのだ。あれよりも強い魔物相手にアッシュを守りながら戦えるのか。
知らずに震えている腕を押さえながらアメリアは考える。
「これからは格下の魔物の相手だけをして、平穏に暮らしたいと言うのならそれでいいかもしれない。
だけど、国中に英雄と呼ばれるような、みんなに認められる冒険者になるためには、それじゃダメだ」
――国中に英雄と呼ばれるような、みんなに認められる冒険者。
それはあの夜、アッシュに向かって自分に言い聞かせるようにいった科白だ。アメリアは思わずキースの顔を見つめる。
アメリアの視線に気がついたキースは申し訳なさそうに眉を下げた。
「ごめん。あの夜アメリアが暗い顔をして出て行ったのが気になって、アッシュ君との会話を盗み聞いていたんだ」
視線を下げ、アメリアは首を振った。確かに驚いたが、キースがいるのにアッシュの部屋に入るアメリアを見たら、気になるのも当然だ。謝るのは、彼を頼らなかった自分の方だ。
「でも、僕は嬉しかったよ。アメリアが僕と同じことを考えていたんだとわかって」
「私と、同じ?」
「そう。僕もみんなとなら英雄と呼ばれるぐらいすごいパーティーになれると思っている。だからこそ、アッシュ君の勝手な行動が問題になってくるんだ」
全員の視線がアッシュに向く。
痛いほどの視線を感じているのにも関わらず、アッシュは口を結んだまま何も答えようとしない。
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