28 冒険者としての行動
キースの言葉を聞き、思わず机を叩きアメリアは立ち上がった。
「なんでそういうことになるの?アッシュが脱退する理由なんてないじゃない。
ブラックウルフたちを討伐できたのもアッシュが囮になってやつらを引きつけてくれたからじゃない」
囮になり、アッシュに注意が向いていたからこそ、キースはリーダーを倒せたのだ。
アッシュの行動は賞賛されど、非難されるいわれはない。
「そうだね。それは間違いない」
キースの賛同する言葉にアメリアは安堵した。だが、何故脱退ということになるのかわからずもやもやする。
「でも、それは本当にポーターの仕事なのかな?」
「え?」
キースの言いたいことがわからず、言葉に詰まった。
「命がけで仲間を助けようとしたり、囮になったりするのは冒険者の行動だよね」
「それの何が悪いの?」
アッシュはポーターの仕事をしてくれているとはいえ冒険者だ。冒険者として行動して何が悪いのだろうとミントはわからず、首をかしげる。
「アッシュ君が僕たちみたいに強いのなら何も問題ないよ。
けど、彼は弱い。そんな彼が勝手に冒険者として行動をするとどうなると思う?」
「どうって」
何も言えず、立ち尽くすアメリアにキースは優しく座るように促す。自分だけが立っていることにばつが悪くなり、彼女は再び座った。
「彼がD級の魔物を倒したことがあったそうだね」
キースはいつの間にか紙を取り出し、それを確認しながらアメリアに問うた。
「ええ、でも結局アッシュが倒したとは認められなかったけど」
あのときの悔しさは今も覚えている。何を言ってもみな信じてくれなかったのだ。
今のように何をいってもアッシュをかばっているといわれてどうしようもなかったのだ。
「マテオさんからそのときの報告書を見せてもらったよ。それによると君たちが打ち漏らした魔物を倒したということで間違いないかい」
手に持った紙をアメリアの方に向ける。キースが持っていた紙はどうやらそのときの報告書だったようだ。報告書を確認し、アメリアは頷いた。
「書いてある通りよ。魔物には魔法による攻撃を受けた痕と斬り傷があったの。
だけど、魔法が致命傷じゃないとわかり、ミントが打ち漏らした魔物をアッシュが倒したと判断されたの」
仕留め残した魔物は見当たらず、依頼された討伐を終えたと一呼吸入れたとき、アッシュの姿がないことに気がついた。
どこにいるのかと探していると離れたところで倒れているD級の魔物と手に解体用のナイフを持ったアッシュが佇んでいるのを見つけた。
それを見たアメリアたちは、ようやくアッシュが魔物を倒せたと喜び、ギルドにもそう報告した。
斬り傷はアメリアが攻撃したにしては荒く、アッシュが解体用のナイフで斬ったものとギルドも判断したが、結局はアメリアたちが倒したことになってしまった。
「では、アッシュ君に聞くが、何故、魔物を倒そうとしたんだい」
キースの質問の意味がわからず、アッシュが小首をかしげながら答えた。
「アメリアたちが打ち漏らした魔物が見えたので、倒した。それだけですけど」
「では、何故、打ち漏らしの魔物がいるとアメリアたちには報告せず、自分一人で倒そうと思ったのかな。戦う力がない、君が。
しかも、君はポーターとして彼女たちに同行するとき、冒険者としての自分の装備は持っていかないのに」
確かに、言われてみればキースの言うとおりだ。アッシュはポーターとして行くとき余計な荷物になるからと言って自分の武器などの装備は持っていかない。
彼個人で持っている鞄は、倒した魔物を収納するためにパーティーが所有している魔法鞄のような物ではなくごく普通の鞄だ。それもポーションなどポーターとして必要な物を入れるだけで一杯になってしまい、自分の武器を入れる隙間などない。腰に武器を携えるということもなかった。
もし、武器を持っていたとしたら解体用のナイフなどで倒そうとしないはずだ。
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