264 黒い雲が晴れる
ミヅハノメが出現したのと同時に雨は止んだが、アッシュたちの体は濡れたままだ。そんな体で雷などくらえば、ひとたまりもないだろう。幸い二柱の水神の圧を感じているためか発動するまでに時間が掛かっているようだ。攻撃される前に倒そうと蛇へと示し合わせたかのようにヒルデと共に走った。
しかし、邪魔はさせないとばかりに雷を呼ぼうとしているもの以外のホノイカヅチがアッシュたちに向かって来た。迫る敵の攻撃を避け、胴体へと刀を振るのだが、やはりすぐに再生されてしまう。数が少なくなっているとはいえ、やはり倒せなければ雷による攻撃を防ぐことが出来ない。
ホノイカヅチたちの猛攻を躱しながらどうにかできないかと考えているとアッシュに襲い掛かろうとしていた敵の体が炎に包まれた。突然のことに敵は怯み、一瞬動きを止めた。
アッシュが視線を向けるとアオイが立って次の攻撃のために紙を手にしているところだった。クズハはまだ気を失っているハヅキを守るように尻尾を絡めて側にいるようだ。
それを見てアッシュは敵から一旦離れるとペンダントから物を取り出し、上へと投げた。
また桃を投げて来るのではないかと思ったホノイカヅチたちは怯えたような顔をするとアッシュから距離を取った。彼が何かをしようとしているとすぐに気づいたヒルデも深追いすることなく、攻撃するのを止めて離れた。
「アオイさん、あれを!!」
アッシュの声で上を見たアオイはすぐさま意図を察するとそれに向かって紙を投げた。紙は炎の槍となってアッシュが投げた爆弾へと飛んでいく。炎は爆弾には当たらなかったが長く伸びた導線に火を着けるとそのまま破裂した。
天井を破壊するような威力はなかったが、激しい爆風が発生したおかげで黒い雲が晴れた。これでしばらくは雷による攻撃を仕掛けて来ることはないだろう。
雲がなくなったことで安堵するアッシュにホノイカヅチが迫ったが難なく避け、刀を振る。斬れても再生されることがわかっているのでムカデの時のようにもとに戻る隙を与えず、アッシュは敵の体に刃を入れ続ける。
一方、ヒルデの方も雷による攻撃がなくなったことで目の前の敵だけに集中することで思い切り戦斧を振ることが出来た。彼女が大きく戦斧を振るだけで複数のホノイカヅチの体が斬り裂かれた。目にもとまらぬ速さで彼女が戦斧を再び振ると斬られた部位がさらに細かくなっていく。その敵の肉片も残さないという彼らの気迫にホノイカヅチたちは飲み込まれていった。
ホノイカヅチたちの頭に不死身である自分たちが倒されるかもしれないという想像が頭を過ぎる。普通ならばそんな考えなど思い浮かばないのだが、仲間がやられた以上あり得ない話ではない。ホノイカヅチたちの中に知りえなかった恐怖という感情が生まれ、動きが明らかに鈍くなっていった。
ホノイカヅチの相手をしているとアッシュはいつの間にかヒノカグツチの側まで来ていた。ヒノカグツチが近くにいるためか敵は襲ってこず、一定の距離から動こうとしない。
敵から目を逸らし、少し上に顔を向けるとヒノカグツチの暗い瞳が見えた。光も映さないようなその目を見ているとアッシュは思わず語り掛けていた。
「貴方は確かに両親から愛されなかったかもしれません。
ですが、貴方を思ってくれる人は他にもいますよ」
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