262 オオカムヅミ
「アオイさん!!」
「嘘つき!!」
アッシュたちの声が聞こえたのか震える手で紙を取り出すとアオイは火の槍を襲い掛かろうと迫る敵へと放つ。それを見ても敵は避けることをせず、彼の出した炎へと突っ込んだ。炎に包まれても敵は鬱陶しそうに首を振るだけで、その体には傷一つ見当たらない。
やはり自分の炎ではホノイカヅチを倒すことが出来ないのだ。アオイは彼女を守るように強く抱き締め、敵の攻撃を受けるしかないと覚悟をした。
彼がそう決意したその時、氷の檻から桃が一つ転がり落ちた。桃は今まさに彼らを襲おうと口を開けた敵に当たり、潰れる。
何故そんなものが檻の中にとアオイが不思議に思っていると桃が当たったホノイカヅチは大きな声を上げて首を左右に動かす。初めて見たその苦しそうな様子に驚いていると敵は煙のようにどこかへと消えてしまった。
「まさか、あの桃はオオカムヅミだったのか」
唖然として受け身を取るのも忘れて落ちるアオイをクズハが受け止める。
だが、二人分の体重を受け止めるのには無理があったのか、さっきのように上手くいかずにアオイは背中から赤い地面に落ちた。
「っく」
肉の焼ける音と嫌な臭いが辺りに広がる。アオイは激痛を堪えながら歯を食いしばり、ハヅキを抱えながら立ち上がると近くにあった安全な地面へと移った。
溶岩に焼かれた背中が痛々しいが一先ず無事であることにアッシュは安堵した。アオイたちを見ることに夢中になり、無防備になっている彼に複数のホノイカヅチが襲い掛かって来た。すぐにそのことに気づいたが彼は何故か刃を納め、代わりにペンダントへと手を伸ばす。
武器を仕舞った行動の意味はわからないが、これで斬られることはなくなったとホノイカヅチは舌舐めずりをしながら口角を上げる。
ペンダントから何かを取り出したアッシュはそれを手にすると不気味に笑うホノイカヅチに投げ付けて来た。どんなものを投げたのか残念ながら見えなかったが、どうせ大したものではないだろう。そう考えた敵はアッシュが投げた何かを気にすることなく次々と迫った。
アッシュが投げたものが彼に襲い掛かろうとしたホノイカヅチの一体に当たった。
しかし、痛みも感じないのでやはり大したことはなかったとほくそ笑む敵の鼻孔を甘く瑞々しい匂いがくすぐる。覚えがある香りにまさかと思った時には叫び声を上げてのたうち回っていた。しばらく溶岩の海を苦しそうに飛び跳ねるといつの間にか姿を消した。仲間の異常な声に思わず動きを止めたホノイカヅチを狙ってアッシュは手にした桃を投げる。
彼から顔を背けていた二体の敵は気づくのが遅れ、桃が体に当たって潰れた。すると先ほどのホノイカヅチのようにもだえ苦しみながら消えた。
仲間がやられたことで怖気づいたのか敵はアッシュを襲うのを止め、距離を取ってこちらを窺っている。
特に桃を投げたアッシュを凝視しているようだ。敵のその様子からやはり、桃はホノイカヅチの弱点なのだと彼は確信した。
桃を採ったあの時はわからなかったが、先ほど投げるために触れた時、ミヅハノメのような清浄な気配を感じた。もしかしたらあの桃は浄化の力が宿った特別な物なのかもしれない。だから、桃が生えていたあの場所は半端者たちにも荒らさせていなかったのだろう。
もしかしたらイザナギもこの桃を投げることでイザナミが放ったホノイカヅチから逃げ果せることができたのかもしれない。
「凄いじゃん、アッシュ君。このままそれ投げ続ければ、アイツら倒せるね」
ホノイカヅチを倒せたことでヒルデは弾んだ声を上げた。
しかし、彼女と対照的にアッシュの顔は暗かった。
「…悪い。投げたあれが全部だったんだ」
楽しんで頂けたなら幸いです。
よろしければブックマーク、評価の方もよろしくお願いします。




