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261 滑り落ちる

「やったか」


 氷が解けたことで発生した白い霧でよくわからないが、氷が小さくなったように見える。期待した声を上げたアオイだったが、霧が晴れて来ると顔を顰めた。

 手ごたえがあったのにタカオカミがいる氷だけが解けていなかったからだ。まるで(ぬえ)の主に何をしても無駄だと嘲笑われているようだ。氷の封印を施した人物の性格の悪さを感じたアオイは思わず舌打ちをした。


「ッチ。鵺の主というのは随分、底意地が悪いヤツみたいだな」


 ダメかと諦めかけたアオイの脳裏にアッシュの言葉が過ぎった。


 ――回復が間に合わなくなるまで攻撃し続ければいいんじゃないでしょうか


 うつむいた顔を再び上げたアオイは氷を見据え、あの時のアッシュのように解けるまで攻撃しようと決意した時、ヒルデが声を掛けた。


「あ、龍が入ったそれだけ普通にやっただけじゃ解けないみたいだよ。触った時にそれだけ魔力の流れみたいなのが違ったもん」


「それを早よ言わんかい!!」


 ヒルデの方を向いて叫ぶアオイの背にホノイカヅチの尻尾が迫った。タカオカミの前にいた蛇がようやく彼の存在に気が付いて攻撃してきたのだ。


「アオイさん、後ろ!!」


 氷を解かすことだけに集中していた彼は気づくのが遅れ、アッシュの声を聞いて振り向いた時には宙に投げ出されていた。


 不意を突かれて何も出来ずに飛ばされたアオイだったが、主が攻撃されたのを見たクズハが回り込み彼を背で受け止めたことで壁に激突するのは免れた。


「…悪い、クズハ」


 クズハに助けられたのだとわかったアオイは柔らかな毛を撫でる。

 攻撃を受けたことでまだ立てないようだが、どうやら大丈夫なようだとアッシュは安堵した。


 アオイの方を向いている顔を戻そうとした時、視界の端にハヅキの入った氷の檻が映った。檻は解けて傾き、柵の数本がなくなっていた。その隙間からハヅキの体がわずかに外に出ている。このままでは遅かれ早かれ溶岩の地面に落ちてしまう。


 アッシュの様子がおかしいことに気づいた敵の一体が同じ方を見た。そして状況を理解すると群れから離れ、ハヅキのもとに向かった。


「!? 待て、やめろ!!」


「君たちの相手は僕たちだってば。その子は関係ないって」


 アッシュたちは叫びながらハヅキの側に行こうとした。

 だが、彼らの邪魔をするように残ったホノイカヅチが立ち塞がり、襲い掛かってきた。迫り来る敵を倒して前に進もうとするが、斬った傷はすぐに再生されてもとに戻ってしまう。


 早く助けなければと焦る彼らを嘲笑うように何とか氷の檻の中に留まっていたハヅキの体が隙間から滑り落ち、宙に投げ出された。彼女の近くにまで来たホノイカヅチは首を伸ばし、大きく口を開けた。


 そのまま彼女に噛みつこうとした時、ホノイカヅチは自分の体を何かが這っているような気配を感じた。

 まさか、アッシュたちかと思いそちらを見るが、彼らは残っている味方が邪魔をしているためにその場から動けずにいる。気のせいかと思ったホノイカヅチが再び口を開けようとすると顔を思いっきり踏まれた。


 誰に踏まれたのかがわからず、混乱するホノイカヅチの目に溶岩が広がる地面へと落ちるハヅキへと手を伸ばすアオイの姿が映った。先ほどの這う気配は彼がホノイカヅチの体を伝って登っていたからだったようだ。


 邪魔をして来るならアッシュたちだけだと思い込んでいた。何故ならアオイは壁に激突しなかったとはいえ攻撃をまともに受けたのだ。実際、狐の背で動けずに乗っていたことからしばらくは立てないのは確かなはずだ。

 それがまさか子供を助けるなどくだらないことのために力が入らないはずの体を無理に動かそうとするなどと思わなかった。


 顔を踏まれた衝撃もあり、まだ状況が飲み込めていないホノイカヅチはアオイが落ちているハヅキを受け止めるのを呆然と見ていた。

 しかし、すぐに我に返ると再び口を開き、彼らに噛みつこうと迫った。








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