27 専属か、それとも…
ティオルの街は歓喜に沸いていた。誰もが口々にアメリアたちを称える言葉を口にする。
しかし、その声を聞くたびにアメリアたちは居心地悪く感じていた。みなから褒められて面はゆいということもあるが、その英雄にアッシュが入っていないことが彼女たちの顔を曇らせていた。
確かに、ブラックウルフは倒していないが、アッシュは危険を顧みずミントを助け、自ら囮となってアメリアたちを逃がそうとした。十分英雄と言える功績だといえるのに聞こえてくるのはブラックウルフを倒したアメリアたちのことばかり。
アッシュの力もあってブラックウルフたちを討伐出来たのだと訴えても誰も聞く耳を持たず、恐怖に震えて何も出来なかったアッシュをアメリアたちが哀れんでかばっていると思われている。
ティオルの街では長い間アッシュは貶めてもいい存在と思われており、今まで見下していた相手が活躍したなど聞かされても誰も信じられない、認められないのだ。
どうすることも出来ず、歯がゆい思いをしているとアメリアたちはマテオに呼び出された。
まだらのブラックウルフについて何かわかったのかとアメリアは思った。
リーダーは倒した。だが、火の魔法を使うまだらのブラックウルフはまだ生き残っている。リーダー以上に厄介な相手であり、まだらのブラックウルフが次のリーダーとなったならば前に以上に危険な集団となっているだろう。奴を倒さずに、脅威が無くなったとは言えない。
しかし、ブラックウルフはあれ以降、煙のように消え、目撃証言もパッタリとなくなり、ギルドもお手上げ状態だと聞いている。
もし見つかったらアメリアたちに情報がいくようになっている。なので、アメリアは呼び出されたということはそのことに違いないと思い込んでいた。
ギルドの職員に案内され、アメリアたちが執務室に入るとマテオが満面の笑みで正面に座っていた。
まだらのブラックウルフの件で呼び出されたのに笑っているマテオが気に掛かった。
「あの、まだらのブラックウルフの件で呼び出されたのですよね?」
アメリアは心配になり、尋ねるが、マテオは笑顔を崩さず首を横に振った。
「今日、話があるのは私ではないよ」
マテオでなければ、誰がと思っているとキースが口を開いた。
「今日、話があるのは僕なんだ」
「話なら拠点ですればいいのではないでしょうか」
話ならわざわざギルドにまで来なくても出来る。なのに、何故と疑問に思い、マリーナは尋ねた。
「マテオさんには見届け人になってもらおうと思って、ここにしたんだ。
さぁ、みんな座って」
疑問は解けなかったが、キースに促され、アメリアたちはソファに座った。当然のようにアッシュはドアの側に立っていた。
「アッシュ君も座って。君に聞きたいことがあるから」
アッシュは驚き、思わずキースの顔を見た。アッシュがこちらを見ているのに気がついたキースがうなずくのを確認すると戸惑いながら、キースの対面になるように座った。アッシュの隣にはアメリアが座っている。
アッシュの熱を肩に感じて、こうして体温が感じられるぐらい近くにいたのはどれぐらい前だっただろう。少なくとも、まだ彼を好きだったあのとき以来だと関係ないことをアメリアが考えていると、アッシュが口を開いた。
「俺に聞きたいこととは何でしょう」
アッシュの問いにキースは笑顔で答える。
「単刀直入で言うね。アッシュ君。
君、冒険者を辞めて『四本の白きバラ』の専属のポーターになってくれないか?」
今もアッシュは『四本の白きバラ』の専属のポーターのようなものだ。今更何を言うのだろうとアメリアたちは戸惑った。
それに、冒険者であり、ポーター専門という人もいるのに何故冒険者を辞めるように言うのかとキースの言いたいことがわからず、頭を捻る。
「申し訳ありませんが、俺は冒険者を辞める気はありません」
アッシュの返事にキースは下を向き、そうかと小さく呟くと顔を上げ、真っ直ぐにアッシュを見つめた。
「なら、『四本の白きバラ』を脱退してくれないか」
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