260 溶岩の塊
「でも、何故ヒノカグツチの力を得たかったんでしょうか」
雷が扱えるからと言っても炎が操れるとは限らない。そんなこと当然ホノイカヅチも知っているはずだ。それなのに何故というアッシュの疑問にアオイは答えた。
「八つのホノイカヅチの内の一柱は落雷が起こす炎を司っているんだ。自分たちの力を強めるために欲してもおかしくはない」
「だとしたら、炎の攻撃は」
アッシュが呟いた時、炎の中からホノイカヅチが姿を現した。その体には焼けた跡すらなく、今も炎に包まれているはずなのに平気そうな顔をして長い舌を出している。
それを見るとアオイは眉間にシワを寄せて舌打ちをした。
「ッチ。効いていないか。やはり火に耐性があるようだな。」
「もお、嘘つきの役立たずぅ」
「いや、そうでもないだろう」
確かに炎は効かないようだが、動きを止めることはできたのだ。倒すことはできないが、それでも十分助かる。アッシュはそう思って言ったのだが、アオイは違う意味に捉えたようだ。
「…慰めなんかいらんわ」
不貞腐れたような声を発するアオイに苦笑しつつ、再び武器を構えると近くで溶岩が噴き出る音がした。気に掛けずに敵と相対していると相手の口元が若干緩んでいることに気づいた。わずかに開いた口から長い舌が覗き、心なしかニヤニヤしているように見える。
敵の様子を怪訝に思っていると噴き出した溶岩の塊がアッシュとヒルデに向かっているのに気付いた。敵の方をよく見ると一体だけ様子が違うものがいる。あれが落雷の炎を司るというホノイカヅチなのかもしれない。アオイが溶岩はヒノカグツチの力だと言っていたので、それを乗っ取って攻撃して来ているのだろう。
「ちょ、ヤバ。逃げ場なくなっちゃってるよ」
周囲を見るといつの間にか二人の周りには赤い地面だけしかなかった。
しかし、アッシュたちから遠くにいるアオイの方には溶岩の塊は迫っておらず、移動できるような安全な部分も見える。どうやら、自分たちを斬り裂いたアッシュたちだけを脅威に感じて狙ってきたようだ。
アオイは大丈夫そうなのでよかったが、自分たちの方は安全な足場がないので回避が出来そうにない。どうすればいいのかと考えているともうすぐそこまで溶岩の塊が迫っていた。焦るアッシュの耳に明るいヒルデの声が聞こえて来た。
「アッシュ君、あれ、斬っちゃおうか」
「…やってみるか」
相変わらず無茶なことを言っているなと思ったが、避けられない以上それしか方法はなさそうだ。アッシュは集中するために深く呼吸すると向かって来る塊に刀を振る。
すると溶岩は二つに斬られ、そのまま彼を避けるように横切ると赤い地面に落ちた。
「よし」
ヒルデの方も斬れたようでこっちを向いて微笑んでいる。斬れることがわかったのならば恐れることはない。次々と向かって来る溶岩の塊をアッシュたちはその場から一歩も動かずに武器を振ることで攻撃を回避する。
その光景に余裕のあったホノイカヅチたちの顔は呆気に取られたようになっていた。
タカオカミの前にいる蛇すら彼らにくぎ付けになっている。その隙にアオイはタカオカミが入っている氷に近寄ると紙を投げて炎を出し、氷を解かそうとする。共について来たクズハも火の球を出して彼の援護をした。
ホノイカヅチたちが自分たちを近寄らせないようにしていたということはタカオカミを解放されては困るからだろう。
つまり、タカオカミを解放さえ出来ればこちらに勝機はあるということだ。
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