258 ホノイカヅチ
避けきれないと感じたアッシュは素早く刀を抜くと地面に突き刺した。それを軸として方向を変えて冷えて安全な溶岩の上に降り立った。
自分を狙ったとしか思えないタイミングでの噴火を見てある考えがアッシュの中に浮かんだ。
「アオイさん、もしかしてこれってヒノカグツチの力が暴走してることで起きているんでしょうか」
溶岩が噴き出したのはアッシュがそこに着地するつもりだとわかった何者かが操ったからとしか思えない。実際に体感した彼はそう思ったのだが、アオイは違うようで首を横に振った。
「確かにこの一面の溶岩はヒノカグツチの力のようだが、彼の意思ではない。
ただ利用されているだけだ」
「誰にさぁ」
鵺の主がいるのならばその人物の仕業だと思えるのだが、辺りにはアッシュたち以外の人の姿はない。警戒しながら二人が武器を構えていると黒い龍を縛っていた縄が襲い掛かって来た。何故かそれからここに来る前に感じた悍ましい気配がする。よく見るとそれは縄ではなく茶色の大きな蛇だった。
口を開けて噛みつくような攻撃をアッシュたちが避けると目の前に七体の蛇が現れた。噛みつこうと迫っていた蛇はそれ以上襲ってこようとしなかった。
代わりに、タカオカミが中に入っている氷の前に素早く移動し、彼らを近寄らせないように威嚇している。
「やはり、ホノイカヅチか」
「ホノイカヅチ?」
アッシュが聞き返すと蛇を睨み付けながらアオイは口を開いた。
「ここに来る前に言っただろ。黄泉平坂で怒り狂うイザナミが放った敵に向かってイザナギが桃やぶどうを投げたと。あれはな、黄泉の国に渡ったイザナミを取り返そうと乗り込んだ先で見た彼女のあまりにも変わり果てた姿に叫び声を上げてイザナギが逃げたからだ」
「…それって」
イザナミとイザナギのことについて話していた時にユカリが言っていたことだ。彼はイザナギが逃げ帰ったとしか言っていなかった。
しかし、よく考えれば愛する夫が自分の顔を見ると悲鳴を上げて逃げたのだ。こんなところまで追って来てくれたという喜びがあっただけにショックも大きかったことだろう。その失望が怒りに変わってもおかしくはない。
「その時、腐った彼女の体に蛆と一緒に生じていたのが八つの雷の神ホノイカヅチであり、怒ったイザナミがイザナギに放った敵というのもそれだ」
一体の蛇がうなりを上げると黒い雲が出現した。次に二、三体の蛇が口を開くとアオイの言葉に答えるように雷が鳴り響き、アッシュたちに襲い掛かって来た。
光る鞭のような攻撃を溶岩が冷えて安全な場所へと回避しながらヒルデがアオイに問いかける。
「何でそんな奴がここにいんのさ」
「俺が知るか。だがな、想像は出来る」
雷だけではなく溶岩も噴き出してアッシュたちに襲い掛かって来る。
安全な地面などに移動して何とか避けていると黒い雲が消え、雷も止んだことに気づいた。おそらく、雲を出現されることで雷による攻撃が出来るのだろう。心配になってハヅキの方を見るが、そこは攻撃されなかったようで檻は壊れていない。
しかし、氷は溶けだしてきており、水が滴っているのが見える。あれではあまりもたない。今すぐに助けに行きたいが、それをしたくても目の前の蛇たちが邪魔だ。どうにか隙を突いて彼女のもとに行けないかと悩んでいるとアオイが口を開いた。
「イザナギを逃がしたイザナミの怒りは自分が死ぬ原因となったヒノカグツチに向かった。そこで黄泉の国に行くはずだったヒノカグツチをホノイカヅチに命じて捕らえ、嫌がらせのようにこの間の世界に封じたと言ったところだろうな」
アオイの予想を聞いてアッシュは胸が痛くなった。それが真実だとすればヒノカグツチは産まれてすぐに父親と母親の両方に疎まれていたということになる。
ホノイカヅチによる拘束が解かれ、残るは引き千切るのも容易そうな鎖だけなのにそれをせずにいるのはその事実を知って絶望しているからなのか。
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