254 迫る矢
アッシュは自分に突撃して来るムカデを躱し、隙を見て攻撃しているのだが、上手くいかない。再生は確かに遅くなっている。
しかし、追撃しようとすると敵が距離を詰めてきてそれ以上続けて攻撃することが出来ない。ヒルデたちがいれば注意を逸らしてくれるのだが、それが望めない今、敵の攻撃を避けるだけで精一杯だ。
「考えが甘かったのかもな」
ムカデはアッシュを攻撃することだけに固執して毒の針を放ってこないのでまだ一人でも戦えているが、それもいつまで持つか。
もしまたあの針の攻撃をして地面がヘドロと化したなら次こそどうしようもなくなる。
敵の攻撃を回避し、刀を振り続けながら考えているとヒルデの声が聞こえてきた。
「アッシュ君、こっち!!」
その声にアッシュだけでなく、ムカデもヒルデの方を向いた。
敵に見つかったというのに彼女は弓を持ってその場を動こうとしない。矢を放つだけならば敵と距離を取って静かに射ればいいだけのはずだ。実際、彼女はずっとそうやって来た。
それなのにわざと思えるような大きな声を上げ、敵に気づかれたとわかっても弓から戦斧へと切り替える素振りがない。何か考えがあるのだろう。どんな狙いがあるのかはわからない。
だが、彼女を信じているアッシュは迷うことなくそちらへと走って行った。
アッシュがヒルデのもとに向かうのを見たムカデは呆気に取られたあと我に返るとすぐに彼を追いかけた。
敵が後ろから迫って来ている気配がするが、アッシュは決して振り返ることはせずに走り続けた。
彼とムカデが近づいて来たのを確認するとヒルデは矢を手にして構える。それが自分に向けられているのを見ても彼は動揺することはなかった。
アッシュがヒルデの近くまでやって来ると矢が放たれる。目の前に迫る矢を彼は最小限の動きで難なく回避した。
一方、後ろにいた敵はアッシュが影になっていてヒルデが何をしようとしていたのかわからなかったが、彼の体が傾いたことで矢が自分に迫って来ているのが目に映った。
だが、それを見ても敵は慌てることはなかった。目には刺さったが、それ以外は跳ね返しているのだ。わざわざ躱すことはない。
それよりも弓を放ち終わり、無防備に立っているヒルデへと標的を変えた方がいいと判断した敵は牙を大きく開けて彼女へと噛みつこうとした。
その時、ミヅハノメを前にした時のような嫌な気配がその矢からすることに気が付いた。
何故なのかはわからない。
しかし、あれは避けないとマズイと感じて咄嗟に体をくねらせるが、間に合わず眉間に突き刺さった。矢が刺さったことに驚いているとそれを通してミヅハノメの力が流れて来た。全身を焼かれるような熱が体を巡り、悲鳴のような声を上げてのけ反った。
その声にアッシュが思わず振り返るとムカデが苦しんでいる姿が見えた。
ヒルデに聞きたいことはあるが今は敵を倒すことが先だと感じ、刀を素早く構え直すと胴体を狙って真一文字に振る。胴体と切り離され、宙に浮いた頭に間髪入れずに刃を入れていると段々周りの音が消えていく。唯一聞こえるのは憤っているように脈打つ『イザナミ』の鼓動だけ。
頭を斬り刻み地面に着地するとまだ倒れていない胴体に刀を振る。欠片も残らないように斬るとそれらは煙を上げていつの間にかムカデはどこかへと消えていった。
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