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253 濡れた矢

「ヒルデ、毒消しのポーションをミヅハノメに!!」


 アッシュはそういうとムカデに再び攻撃することで注目を自分に集めてヒルデたちから離れた。怒りにより彼しか見えていない敵はヒルデたちのことを見ることなく一目散に追って行った。


「もお」


 彼の勝手な言い分にむくれながらもヒルデは素早くポーションを取り出すと力なく地面に横たわるミヅハノメに使う。すると毒に冒されていたように濁った色をしていた体が元の透明な姿に戻った。


 ミヅハノメはお礼を言うように穏やかな目を向けて来る。それに応えるように彼女はミヅハノメの頭を撫でた。


「毒は消えたかもしれないけど無理して動いちゃダメだよ。助けてくれてありがとね」


 言葉が通じたのか小さく頷いたのを確認するとヒルデは弓を手にする。同じくアッシュの手助けしようと紙を取り出したアオイに彼女は呆れたようにため息を吐く。


「君もだよ、嘘つき。そんな体じゃ、足手まといだよ」


 今はアッシュを噛みつこうということだけしか頭にないために敵はそれ以外の攻撃をしていない。

 しかし、また毒の針を放ってきたら立つのもやっとのアオイでは避けられないだろう。彼もそのことをわかっているのか唇を噛んで黙っている。


「ワンちゃん、嘘つきが無茶しないように見張っててね」


 オロオロしているクズハに微笑み、アッシュのもとに行こうとした時、ミヅハノメは彼女が手にしている矢を食べるように口にした。


「あ、それ食べ物じゃないよぉ。ペッして、ペッ」


 矢を取り戻そうと飛び跳ねるヒルデを意に介さず、ミヅハノメはもごもごと口を動かすとやがて口にした矢を吐き出した。それを受け取るとヒルデは引きつった顔をした。


「ぅへ」


 手にした矢は明らかに濡れている。透き通った水の体をしているので唾液ではないのだと思うが、さすがにそのまま使うのは躊躇われる。仕舞って他の矢を出そうとした時、アオイの怒鳴るような声が耳に入って来た。


「その矢でアイツを射ろ!!」


 ヒルデはビクッと肩を動かしアオイの方を向くと彼は真剣な表情をしていた。何故そんなことを言うのか理解できないというようにヒルデは首を傾げる。


「いや、この子が食べちゃったから、これ湿気てるよ」


 矢に水分が含まれていると軌道が変わり、思った通りの場所に飛ばないのだ。ただでされ予断を許さない状況なのに狙ったところに飛ばないような矢を使えという理由がわからない。


「ミヅハノメが口にしたことでその矢に浄化の力が宿っている。いいから、やれ!!」


「浄化って」


 その時、ヘドロと化していた地面が水や氷によって元の姿に戻ったのを思い出した。あれはミヅハノメの浄化の力に触れたからだったのだ。

 そうだとすればムカデがミヅハノメに噛まれて絶叫していたのも浄化の力が弱点だったからかもしれない。


 アオイの言う通りだとすれば、これで射ることでムカデを倒せるだろう。


「…当たればね」


 ヒルデとて天気の悪い日の戦闘など数えられないほど経験している。だからこそ、濡れた矢の扱いにくさも理解している。

 しかも、浄化の力を宿した矢はこの一本しかないのだ。外すことなど許されない。


 不安で悩んでいるヒルデの耳にムカデの雄叫びが聞こえてきた。思わずそちらを振り向くと戦い続けているアッシュの姿が目に映った。敵の再生が遅くなっていることもあってまだアッシュが優勢とはいえ先ほどと違ってサポートがない状況なのだ。いつ敵の牙が彼を食い破るのかわからない。


 この矢で射ることが出来れば彼を守れる。

 手にした矢を睨むように見ると上を向いて不貞腐れたように叫んだ。


「あぁ~、もう。わかった、やるよ。やればいいんでしょ」


 ヒルデは弓を持って今もムカデと一人で戦っているアッシュのもとに走った。







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