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252 ミヅハノメ

「俺が狙ってたんはお前ちゃうわ」


 攻撃が躱されたにも関わらず動揺する素振りがないアオイに敵が疑問を感じていると水滴と小さな氷の欠片が降り注いできた。敵が上に目を向けると天井にあった一番大きなつららが彼が放った炎の熱によって解けているのが見えた。


 何かが壊れる音がしたと思うとつららが真っすぐに落ちてきた。その下にいた敵は逃げようとするのだが、突然のことに反応が遅れてつららに体を貫かれた。氷を取ろうと胴体をくねらせるのだが、杭のように突き刺さったつららはびくともしなかった。


 アッシュは敵の視線がつららだけに向けられているうちにもう一度攻撃しようとするのだが、やはり周囲に散らばる毒が邪魔で近づくことが出来ない。どうすればいいのかと考えていると先ほどよりもヘドロの量が少なくなっているのに気付いた。注意して見ているとアオイの炎の熱で解けた水が下に落ちるとそこにあったヘドロが消え、元の地面に戻るのが見えた。


「何が起こってるんだ」


 その光景にアッシュが驚いているとムカデを縫い付けている氷が解けているのが目に映った。

 しかし、解けたにも関わらず水は地面に落ちずに何故か宙に浮かんでいる。やがてその水が大量に集まると龍の形をとった。その姿を見て慌てるムカデの堅い胴体に龍は容赦なく噛みつく。

 すると先ほどまでと比べ物にならないほどの敵の絶叫が辺りに響いた。


 何が起こっているのかわからず呆気に取られているとアオイがふらついているが見えた。近寄って肩を貸そうとするのだが、彼はアッシュの方を向いて睨み付ける。手助けなどいらないと言いたいのだろう。

 震える足を見て立っているのもやっとなのだろうと感じたが、伸ばした手を戻し彼に問いかけた。


「アオイさん、あれって」


「キョウガ島で見ただろう。ミヅハノメだ」


「…ミヅハノメ」


 その名を聞いてアッシュの脳裏にユカリが話していたことが蘇って来た。


 ――炎に対抗できる水神であるミヅハノメを自分一人で死の間際に作り出したんやと


 イザナミがヒノカグツチを抑えるために産み出した水神とは、キョウガ島でアッシュたちが会ったあの龍だったのだ。

 拘束を抜けようと必死で体をくねらせるムカデに再び噛みついて攻撃し続ける龍をアッシュが唖然として見ていると近づいて来たヒルデが問いかける。


「でも何で」


 そんな神が何故このような場所に来てムカデを攻撃しているのだろうという当然の疑問を彼女が口にするとアオイが答える。


「さあな。自分を喰らおうとする大百足(むかで)を倒さなければと思っているからか、もしくはお前たちを助けに来たかじゃないのか」


「俺たちを?」


 キョウガ島でダンジョンコアの欠片から救われたことで恩を感じたとでも言うのだろうか。その時、コアの呪縛から逃れたことで穏やかな目を向けるミヅハノメの姿がアッシュの脳裏を過ぎった。


「氷が邪魔で中に入れずにうろうろしていたんだ。水を介してならこちらに来られるかと思ったんだが、どうやら正解だったな」


 どうやらアオイはつららを解かして水にすることでミヅハノメが移動できるようにしたようだ。

 安心したのか体が傾くアオイを側に来たクズハが支える。心配して顔を覗き込むクズハを彼が優しく撫でていると大きな叫び声が聞こえてきた。声がした方を向くとミヅハノメがムカデに絡めとられて噛まれていたところだった。透明な水の体に毒のようなものが注がれ、ミヅハノメが苦しみ始めた。


 アッシュは気がついたらムカデの方へと走り、刀を振っていた。斬られた敵は噛みついていたミヅハノメを放し、悲鳴を上げる。そして攻撃してきた彼を見ると牙を鳴らして突撃してきた。


 敵の怒りに任せた攻撃は容易に躱すことが出来た。避けられて無防備な胴体にもう一太刀浴びせるとアッシュは距離を取った。苛立ったような目でこちらを向く敵を冷静に観察すると彼が斬った部分の再生が遅れているのが見えた。


 何故かはわからないが、ミヅハノメが噛みついたことの影響なのかもしれない。これならもう一度敵の体を斬り刻めば今度こそ倒せるかもしれないとアッシュは刀の柄を強く握った。







楽しんで頂けたなら幸いです。

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