251 毒の地面
振り向くアッシュにヒルデは微笑んで軽口を返す。彼女が視線を下に移すと顔を斬られたムカデが地面をのたうち回っているのが目に映った。攻撃が届く前にアッシュの刃が敵を斬り裂いたのだ。
しかし、せっかく斬った断面から触手が生えて再生しようとしているのが見える。
「いくら斬ってもダメだね。どうしようか」
「このまま再生が追いつかなくなるぐらい攻撃し続けようと思ってるんだが」
アオイは呆れたようだが、ヒルデはどういう言うだろうかと反応を待っていると彼女の笑い声が聞こえてきた。
「いいね、それ。僕が弓でサポートしてあげるからアッシュ君やっちゃって!!」
戦斧から弓に切り替えたヒルデは再生した頭を上げてこちらを睨むムカデの目を狙って矢を放つ。目は外殻と違って堅くないのか容易に矢が刺さった。首をのけぞって痛がる敵にアッシュは畳みかけるように刀を振るのだが、やはり外殻に傷を付けることさえ出来ない。
諦めずに刀を振っていると何かが掴めてきた気がする。呼吸を整え、改めて刃を振ると敵の体が斬り裂かれて真っ二つになった。驚愕で目を見開く敵にアッシュは容赦なく刃を振り続ける。再生のために触手が生えようとするが、それが間に合わないほどの激しい攻撃を前に敵は為す術もなかった。
「なんやねん、あれ」
氷の影から様子を見ていたアオイはアッシュの攻撃に目を奪われた。回復が間に合わなくなるまで攻撃し続ければいいと彼が言った時、バカなのかと思った。
だが、本当にそれをやってのけている彼の姿と迫力に思わず息を呑んだ。
大百足の堅い体に傷を付けるだけでも大したものなのにそれを斬り刻むのだ。もしかしたら、このまま倒せるかもしれないと思ってしまった。
「…でも、あかんやろうな」
このような間の世界にいるものが普通の方法で倒せるはずがない。それらの対応を考え、彼らに指示できるのはこの世界を知る自分だけだ。
しかし、どうすればいいのかわからない。
あんなに偉そうに言っておきながら大事なときに役に立たないことを情けなく思っていると自分たちが入って来た穴で何者かがうろうろしているのに気付いた。半端者たちかと思ったが、あのように淀んだものの気配ではない。
その気配の主が誰かわかったアオイはすぐ穴を塞いでいる氷を解かそうとした。
だが、ここから炎を飛ばそうとしても距離がある。もっと近づかなければと思い動こうとするのだが、体は言うことを聞いてくれない。
不甲斐ない自分に苛立っていると水滴が顔に落ちてきた。視線を上に向けたことである考えが浮かんだ彼は歯を食いしばって立ち上がった。
「くっ」
敵の胴体を斬り刻むことはできたのだが、わずかな隙をついて再生した頭が毒の針を無差別に放って来た。咄嗟に氷の影に隠れて様子を見ているといつの間にかムカデの体が完全に元に戻っていた。
「もう一回だな」
また最初から斬らなければいけないことに落胆の気持ちはあるのだが、一度出来たのだから次もいけるはずだと自分を鼓舞する。針が止んだので敵に仕掛けようとするが、周辺の地面は毒のヘドロとなっており、敵に近づくことが出来ない。
「もお、こっちこいっての」
ヒルデとクズハが遠距離から攻撃し、自分たちの方へ来るように仕向けようとするのだが、敵は彼らを嘲笑うかのようにその場から動こうとしない。
「どうすれば」
アッシュがそう呟くと敵の視線が逸れた。疑問に思いながら同じ方を向くとアオイが立ち上がっているのが見えた。回復したのかと思ったが、わずかにぐらついているようなのでまだ全快ではないようだ。
アオイは手にした紙を投げると炎の槍が出現し、ムカデに向かって行った。
しかし、それを予測していたかのように敵は長い胴体をくねらせて炎を回避すると彼を笑うかのように牙を鳴らした。




