248 降り注ぐつらら
「何かするつもりだな」
壁に激突したアッシュは何とか立ち上がると刀を構えて警戒する。威嚇するように千切れかかった尻尾を地面に打ち付ける敵の顔に火柱が上がった。
「何をしている。畳みかける時だろう!!」
アオイはそう叫ぶとムカデの体に次々と火柱を当てる。それに続くようにクズハの火の玉が敵の顔に向かって行くのが見える。
彼らが攻撃するごとに部屋を凍らせていた氷が解け、辺りには白い霧が広がっていく。その所為でわかりにくいが、炎を受けて続けていることで動けないようだ。彼の言う通り何を仕掛けて来る前に今、追い打ちをかけるべきだろう。
ヒルデの方も同じ考えだったようで不服そうな顔をしながらも敵に向かって戦斧を振った。その姿を見てアッシュもアオイの火柱を避けて敵の影を頼りに近づくと長い胴体に刀を振る。相変わらず堅いがアオイの炎でダメージを受けた部位など一か所だけに集中して振れば攻撃が通るようになっていた。
「よし」
「こっちもいけそうだよ。って、うわ、冷た!!」
ヒルデの声にどうしたのかと思っているとアッシュの頭にも何か冷たいものが落ちてきた。上を見るとつららが解け、その雫が滴って来たようだ。
「いや、待て。これまずくないか」
アッシュが呟くと予想通りつららが彼らの方へ次々と振って来た。おそらく、アオイの火柱の熱によってこの場の温度が上がり、氷が解け始めてもろくなったためだろう。二人はたまらず攻撃の手を止めて天井から落ちて来るつららから避けることに集中した。
「もう、ちょっと考えればわかることじゃん。嘘つきのアホ~」
「ッチ」
ヒルデの罵倒にアオイは反論しようと口を開けるが、彼も落ちて来るつらら躱すのに必死で何も言い返せずに代わりに舌打ちをした。
「でも、意外と効いてるみたいだな」
ムカデもつららを避けようとするのだが、体が大きいのでアッシュたちのように全てを躱すことが出来ないようだ。いくつものつららが敵に降り注ぎ、その中の一つがアッシュたちが攻撃していた部位に当たった。すると敵は耳が痛くなるほどの叫び声を上げて暴れ回る。
それを見て今だと考えたアッシュは天井から落ちて来るつららを掻い潜り、敵の近くまで来ると刀を振り下ろした。
すると先ほどまで傷一つ付けられなかったのが嘘だったかようにムカデの胴は真っ二つに斬り裂かれた。敵は無事な頭などを動かすが、やがて地面に倒れ伏して静かになった。
しばらく様子を見てみたが、ムカデはピクリとも動こうとしない。
「倒せたのか」
あまりにも呆気なかったからか、敵を倒したという感覚がない。
「お、やったね、アッシュ君」
「あ、ああ」
嬉しそうに駆け寄るヒルデにアッシュは答えるが、その言葉は歯切れが悪かった。
「どうしたの。嬉しくないの」
「いや、そういうわけじゃないんだが」
倒せたことは単純に嬉しいが、凍って動けない状態になってさえ異常な気配を放っていた敵がこんなにあっさりとやっつけられるだろうかという疑問の方が強い。
アッシュの態度がおかしいことに気づいたヒルデがもう一度問いかけようとする前にアオイが声を掛けた。
「よく大百足が斬れたな。見事だな」
彼は二つに斬り裂かれ、動かないムカデを見ながら感嘆のため息を吐いた。
「アオイさんはこのムカデのことをご存じなんですか」
口調からしても彼はこの敵のことを知っているようだった。だからこそ、弱っているのを見て畳みかけるように言ったのだろう。
「堅い外殻を持っているために刃も弓の矢も効かない妖怪として有名だな。水神を喰らおうと付け狙っていたが、一人の若者の手によって倒されたと聞いたが」
「水神って」
キョウガ島で龍神を見てアオイが呟いた言葉であり、ヒノカグツチのことを話していたユカリも口にしていたものの名だ。ここに来てそれを聞くことになるとは何かあるとしか思えない。
詳しく聞こうとした時、あの異常な気配を感じた。敵は倒したはずなのに何故だと思い周囲を見渡すが変化はない。ふと横たわった敵に目を向けると切れた断面に触手のようなものが生えて動いていることに気が付いた。
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