246 氷の塊
道を知っているアオイが先を行くことになり、アッシュたちはその後に続くことにした。彼が言う半端者に襲われるかもしれないと思っていたが道中で敵に遭遇することすらなかった。護符の効果を実感しながら下を見ると地面にはアッシュたちと鵺の足跡が並ぶように付いている。
やはり、鵺は最奥にいるのだろうと考えていると道が緩やかに下っていることに気が付いた。
「最奥って地下にあるんですか」
「ああ、そうだ。ここから敵の気配が強くなるが、ビビるなよ」
彼の言う通り不気味な気配が下に行くにつれて強くなっている。
いつ戦闘になってもいいように警戒しながら進んでいると洞窟の入り口までやって来た。その奥から得体のしれないものの気配がする。それを感じ取っているのかクズハの毛が逆立っている。
「どういう敵なのか、わかりますか、アオイさん」
「さあ。俺は気配を感じてすぐに引き上げたからな。敵の姿や中の様子などは見ていない」
「役立たずぅ」
ヒルデのヤジにアオイは眉間にシワを寄せ、口の端を引きつらせていたが何も言い返すことはなかった。確かに中の様子などを知ることが出来ればよかったが、あまり落胆はしていない。
むしろ、調査だからと深入りしなかったのは英断だっただろうと思った。
「これほど強大な奴なら護符を持っていてもすぐに気づかれる。覚悟はいいか」
アオイはアッシュの目を真っすぐに見つめて問いかける。引き返すのなら今だと心配して言っているようだ。
鵺の足跡はこの先へと続いている。もしかしたら、中でハヅキと共に待っているのかもしれない。そうだとすれば、ここで踵を返すなど出来るはずがない。
「俺が先に行きます。いいですね」
アオイの強さは知っているが、彼の戦い方では咄嗟の時に対応が遅れてしまいかねない。相手がどんな奴かわからない以上戦い慣れているアッシュたちが前を行くのがいいだろう。そう提案すると彼は大人しく頷いた。
「ヒルデ」
「わかってる」
彼女は背負った戦斧を手にして答える。明るく振舞っていたが、彼女も中の異常な気配に油断ならない相手だと察したのだ。
いつでも刀を抜けるようにアッシュは警戒しながら中へ入ると冷たい空気が流れて来ることに気が付いた。前に進むごとに冷気は強くなり、不思議に思いながら歩いていると開けた場所まで出てきた。
「氷?」
そこには敵の姿はどこにもなく、代わりに大きな氷の塊がいくつも鎮座していた。足元を見ると霜が張り、壁も凍っているのか白いものが見える。上に視線を向けるとつららがいくつも出来ており、一番大きなものからは雫が規則的な間隔で落ちている。
氷を見ているとアッシュの脳裏に鵺の姿が浮かんだ。
「アオイさん、これは自然に発生したものだと思いますか」
アッシュの問いかけに彼は睨むように辺りを見ながら口を開いた。
「…攻撃系の護符を使った気配がする。おそらく、鵺の主がこれをやったんだろうな」
彼の言葉を聞くとアッシュは白い息を吐きながら周囲に目をやった。予想していた答えだったとはいえ、鵺の主と言う人物はこの場所全体を凍らせることが出来るほどの力を持つのだと改めて意識して背筋が寒くなった。
「それより、敵は違う場所にいるのか」
目に映るのは氷ばかりなのでアオイがそう思うのも当然だ。
「いえ、絶対にここにいるはずです。どこかに隠れているかもしれないので気を抜かないように」
アオイの疑問にアッシュは首を横に振る。洞窟に入ってからここに来るまでは一本道だった。なので、道を間違えたということはない。何より姿は見えないが入る前に感じていたあの異常な気配は今もなおこの場所に漂っていることからここにいるのは間違いない。
周囲を見回しながら前に歩いていると奥へと進む穴の前に鵺が佇んでいるのが目に映った。その近くにハヅキの姿はない。前回のように後ろに倒れているのかと思ったが暗くて良く見えない。
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