245 ただの飾り
アオイが張ったという結界から恐る恐る出るが頭痛などの症状は現れなかった。安堵しながらぶどうが生えている場所から離れていると辺りを漂う腐敗臭は全くしないことに気が付いた。
もしかしたら、あの臭いもまた瘴気の影響だったのかもしれない。
「呆けてないでさっさと行くぞ。半端者たちがこちらに向かって来るかもしれないからな」
「あ、はい」
「むぅ、偉そう」
声を掛けられたことでアッシュは振り返って答えるのだが、ヒルデは不満そうに頬を膨らましてアオイから貰った護符をいじっている。
「それより本当にこれ効果あんの、嘘つき?」
もう嘘つきと呼ばれても訂正する気がなくなったのだろう。諦めた顔をしながらアオイは渋々答えた。
「…何の対処のせずに結界の外に出たさっきと違って今は体の不調を感じないだろう。それが瘴気を防いでいる証拠だ。それより無くすなよ」
不服そうにしながらもそれを実感したからかヒルデは大人しく護符を仕舞った。理解はしていてもまだ、納得いかないらしく彼女は口を尖らせると自分の頭にある髪飾りに手を伸ばした。
「何で髪飾りは瘴気から僕を守ってくれなかったのかな。こんな紙きれが効果あるのに」
「ああ、確かにそうだな」
通路の崩壊により水が押し寄せた時、アッシュが贈った髪飾りはヒルデを守った。原理はわからないが、身に着けた者の危機を感じると発動するのならば何故それが今回は沈黙したままだったのだろうか。
「その髪飾りがなんだって?」
事情を知らないアオイは怪訝そうに眉にシワを寄せている。ヒルデが話すとややこしいことになりそうなのでアッシュが代わりに説明する。聞き終えるとアオイは腕を組んで彼女の方を向いて頷いた。
「なるほど。貴方から妙な気配がすると前から思っていたが、原因はそれか。
まあ、力が尽きているから発動しないのは当たり前だな」
「え、何それ」
アオイは一目見ただけで何かわかったようだ。キョトンとした顔をしているヒルデに彼は理解しやすいように話す。
「おそらく、最初に貴方を守った時に全ての力を使い果たしたんだろう。徐々に回復しているようだが、以前のような力を取り戻すまでだいぶ時間が掛かるみたいだな。
それまでただの飾りだ。残念だったな」
髪飾りを触りながら話を聞いていたヒルデは首を横に振るとあっけらかんとした顔で答えた。
「え、全然。確かにすごいとは思うけどそれって僕の力じゃないもん。次に攻撃から守ってもらったらラッキーぐらいしか思ってないよ」
自在に扱えないのにいざという時に力を使えるのだと根拠のない自信を持って戦っていると必ず足元をすくわれる。下手をすればその過信が命を失うことになりかねない。ならば、そもそもないものとして考えた方がいいということなのだろう。
同意するように頷いているとヒルデと目が合った。すると彼女は花がほころぶように笑った。
「そんな力なんてなくてもさ、アッシュ君からの贈り物ってだけで十分だよ。
なにより、僕がこれ、気に入ってるし」
その言葉を聞くとアオイはジトっとした目をしてアッシュの方を見た。
「え? 何でそこで俺を見るんですか」
「…別に」
何故そんな目で見られるのかわからないアッシュは問いかけるのだが、納得いく答えが彼から返ってくることはなかった。
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