243 奥へと続く足跡
普通ではない状況にも関わらず躊躇いもせずに間の世界に飛び込んだ鵺がこの件に無関係なはずがない。原因の辺りをうろついていたというのならば間違いないだろう。
アッシュの言葉にアオイは考えるように顎の手を当て、目を伏せた。しばらく待っているとようやく彼が口を開いた。
「鵺の異常な行動を聞く限り、その可能性は高いな。まあ、調べてみなければわからないことだが」
思えば、鵺はアッシュたちがちゃんと追いかけて来ているか確認するような素振りをしていた。どこかへと誘っているのだと思っていたが、もしかしたら、その最奥に連れて行きたかったのかもしれない。
しかし、そう断定するにはまだ手がかりが足りない。
何がないかとアッシュが地面に目を向けるとブドウがいくつか落ちているのに気付いた。その周りには獣に踏み荒らされたような足跡がある。
「あれってクズハさんの足跡ですか」
桃の時と同じく鵺かと思ったが、ここにはクズハがいるのだ。大きさが違うような気がしたが確認のためアオイに聞くと彼が何か言う前にヒルデが答えた。
「ワンちゃんじゃないよ。ほら、お手々汚れてないもん」
彼女はクズハの真っ白な手の平を持ってこちらに見せた。クズハの方は訳がわからないという顔をして首を傾げている。よく見ると手だけではなく足も汚れていないようだ。
クズハではないとすればやはり鵺のものなのかと改めて見ると足跡は向こうにある道の先まで続いているようだ。
「…この先は最奥に繋がっていたはずだ」
アオイは足跡が続いている道を睨むように見ながら言った。それを聞いてハッキリとした。やはり、鵺は最奥に彼らを誘っているのだ。
「アオイさん、俺たちをその最奥まで連れて行ってくれませんか」
「はぁ? 何で俺が」
「自分一人じゃ対処できない敵がいるから最奥を調べられないんじゃないですか。それで諦めて引き返そうとしていたところで俺たちを見つけた。違いますか?」
その言葉を聞くとアオイは黙った。
彼ならば原因を解明するためすぐにそこまで行くはずだ。なのに、まだ行けていないということは何か理由があるのだろう。
例えば、アッシュたちを襲った鎧兜の集団のような厄介な相手がいて、そこから先に進めないのかもしれないと思っていたが、どうやら正解だったようだ。
どんな敵なのかはわからないが、アッシュたちならばどうにか出来るかもしれない。
だが、アオイの張った結界から一歩外に出れば、アッシュたちは瘴気を前に為す術もなく果てるだけだ。
もし最奥に着けたとしても瘴気に冒された体では本来の力を出すことが出来ない。ハヅキを助けるためにも瘴気を防ぐ方法を知っている彼の協力が必要なのだ。
「俺たちならその敵を倒せるかもしれません。お願いします、ハヅキちゃんを助けるためにもアオイさんの力を貸してください」
一向に口を開かないアオイにアッシュは頭を下げる。その姿にアオイは呆気に取られたかのような顔をしたがすぐの眉を顰め、口元に手を当てて悩んでいるような表情をした。
やがて彼は小さく呟いた。
「…偶然なんか、これ」
アッシュには何を言ったのかは聞こえなかったが、アオイは眉間にシワを寄せて神妙な面持ちをしている。彼としても瘴気が溢れ出ているような危険な場所を早くどうにかしなければと考えているはずで悪い提案ではないはずだと思っていたのだが、ダメなのかと諦めているとアオイが紙を差し出した。




