25 血まみれの背中
昨日は1日2回投稿したのでまだ見ていない方は注意してください
撤退という言葉にアメリアはここが戦場であることも忘れて、思わず声を上げた。
「何を言っているの、キース。
私はまだ戦えるわ。戦えるのに撤退なんてあり得ない」
アメリアにとって撤退するということはブラックウルフたちに負けたと認めることと同じだ。そんなこと認められない。
何より自分はまだ戦えるのに何故、撤退しなければいけないのかわからずキースに迫った。
「君はまだ戦えるかもしれない。
だが、ミントとマリーナはもう精神的に限界なんだ。
まだ、二人が魔法を使える内に撤退して日を改めるほうがいいと、僕は思う」
魔力ポーションも無限にあるわけではない。
また、精神の疲労により、魔法も最初よりも精度が低くなっているため、戦いは長引くだろう。
しかし、これ以上戦いが長引けば、二人は戦うことはおろか、逃げることもかなわなくなることは明らかだ。
アメリアもそれはわかっている。わかっているが心がそれを拒否する。
「――でも」
「アメリア」
アメリアの目を真っ直ぐに見つめながら真剣な顔でキースは彼女の名前を呼んだ。
「君の言いたいこともわかる。勝つことはもちろん大事だ。
でも、君の何が何でも勝つという意地を貫くことで確実に誰かが死ぬだろう。
全員が生き残るためにはそんな意地は捨てるべきだ」
誰かが死ぬなど考えていなかったアメリアは何も言えなくなってしまった。そんな彼女を慰めるように肩に手を置いてキースは微笑んだ。
「それに、生きて情報を持ち帰ることもまた、勝利するのと同じぐらい大事なことだと思う。違うかな?」
アメリアは自分の不甲斐なさに唇を強く噛む。
キースが加入する前も一人ではつらいのにアッシュを待ちたいと自分の意地を通し、ミントたちを危険にさらしていた。
あの時に反省したはずなのに自分はまた同じ間違いを犯そうとしていた。
「ごめんなさい。私、また自分のことしか考えてなかった」
憑きものが落ちたようなアメリアの表情を見て、キースは安堵のため息をついた。
「幸い、ブラックウルフに僕たちの場所はまだ見つかっていない。このまま隠れて撤退しよう。マリーナは結界を維持し続けてくれ」
アメリアたちがうなずき、撤退しようとすると、結界に衝撃が起こった。
見るとブラックウルフが前足を上げ、結界を破ろうとしている。
話し合うことに気が取られていて気がつかなかった。
通常ならば結界を攻撃されても振動など起きない。
しかし、精神に負担が掛かったマリーナの結界の強度は弱く、攻撃による振動を防ぐことが出来なかった。
突然のことにアメリアたちは恐慌状態に陥り、思わず声を上げてしまった。彼女たちの声に反応して他のブラックウルフたちも近づいてくる。
思わず舌打ちしそうになったキースは、落ち着けと自分に言い聞かせ、考える。
ブラックウルフのリーダーの姿も見えるが、距離があるため、まだこちらに気がついていないようだ。リーダーがこちらに気づいていない今のうちに周りのブラックウルフを倒して走れば逃げられるかもしれない。
だが、アメリアは恐怖で固まってしまっている。
自分一人でブラックウルフたちの相手をする覚悟を決め、キースは大きく息を吐き、剣を構えた。
「おおぉ!!」
大きな叫ぶ声が聞こえたと思ったら、アッシュが結界から外に出て、リーダーの方へ走っていた。
予想外のアッシュの行動にキースが反応できずにいると結界に集まっていたブラックウルフたちが一匹残らず、アッシュを追いかけて行く。
おそらく一番弱いと思われるアッシュを全員でなぶり殺すために追いかけたのだろう。
その証拠に追いかけて行くブラックウルフたちの口角は大きく弧を描いていた。
ブラックウルフに追いかけられていることに気がつき、追いつかれまいとアッシュは足を必死に動かすが、足がもつれて転んでしまった。転んだ拍子に鞄の口が開き、ポーションなどが辺りに散らばった。
転んだアッシュにブラックウルフたちは群がった。
リーダーもアッシュの方にゆっくりと近づく。近づくときに何か踏んだような気がしたが、人間が転んだときに散らばった何かだろうと気に留めず、仲間に合図を出した。
合図を皮切りにブラックウルフたちはアッシュへと前足を振り下ろす。
ブラックウルフたちは長く楽しもうと彼を一撃で仕留めようとせず、まるでおもちゃで遊ぶようにしていたぶる。
アッシュは手で頭を守り、体を丸めて攻撃を耐えるが、その背中はブラックウルフの爪により傷つき、血まみれになった。
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