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236 青々とした竹

 人のように見えるそれは血が通っていないかのように青白く、片目が腐り落ちていた。無事であるもう片方の目には生気が感じられない。兜が脱げたからなのか辺りを漂っていた腐敗臭が強くなった。


「まさか、ここにいる敵全員がそうなのか」


 そう思うとアッシュを囲む敵がより一層不気味に感じられたが、気持ちで負けないように目を逸らさず、相手を真っすぐに見る。

 敵は仲間がやられたことでひるんだのかすぐに攻撃せずに様子を見ている。お互いに出方を見合っていると彼に耳に刃が重なり合う金属音がした。姿は見えないがすぐ近くでヒルデが戦っているのだろう。無事でよかったが、喜んでいる場合ではない。


 そんな音がするということは彼女も同じように戦っているということだ。

 頭痛と謎の倦怠感で刀を持つ手が震える。このような状態の中、アッシュだけで複数の敵を相手に立ち回らなければならないのだ。


「さて、一人でどこまでやれるか」




 左右から襲って来る刃にアッシュは後ろに飛んで躱す。その着地点を狙って飛んでくる矢を刀で斬るとすぐに岩の陰に隠れる。あれから、攻撃することは避け、隙を見て逃げようとしているのだが、敵の数が多いので上手くいかない。


「まずいな」


 攻撃を避けている内に道の入り口からどんどん遠ざかっているのに気が付いた。どうにかしなければと思っていると後ろから敵の気配がした。振り返ると兜が脱げ、青白い顔を晒した敵がアッシュを噛みつこうと口を開けて迫って来ているところだった。


「っく」


 噛まれる前に転がるようにして横に避け、すぐさま敵へと刀を振った。刃は相手の腐食した皮膚を斬り裂くのだが、その部位に肉が盛り上がると次の瞬間には何事もなかったかのように修復されてしまった。

 攻撃が躱された敵は暫し虚無を見つめた後、再び彼を襲って来た。


 アッシュを囲む敵の兜を何度か壊して顔を見たが、どれもが同じように肉が腐り落ち、生気のない目をした者ばかりだった。斬ったとしても先ほどのようにすぐ修復されてしまうので倒して数を減らすということが出来ない。


 兜が脱げた敵は手にした刀を捨て、噛みつくという単純な攻撃しかしてこないので避けやすくなったのはいいが、腐り落ちた顔が迫って来る姿というのは他の敵には感じたことのない恐怖を駆り立てられる。

 しかも、それが攻撃ではなく、ただアッシュを喰らおうしているだけのように見えるので余計だ。


「どうすればいいんだ、これ」


 倒すことのできない敵を前にどうすればいいのかと攻撃を避けながらも考えているのだが、何も思い浮かばない。そうしているうちに再び敵に囲まれてしまった。遠くから自分を狙って弓を向けている者も見える。


 斬ったとしても倒せないどころか怯ませることもできないと悟ったアッシュは刀を仕舞う。その代わりに根のついた植物を取り出した。

 すると敵の目が全員何故かそれにくぎ付けになった。そのことを不思議に思ったが、気にするのは後にして手にしているものを敵の足元に向かって投げた。


「――植物(ピアンタ)よ」


 彼が魔法を使うと植物は急速に成長して青々とした竹となり、近くにいた相手を下から突き上げた。数人の敵が宙に舞ったことで空いた隙間を抜けて包囲を突破する。


 すぐにまた襲って来ると思い、逃げながら柄に手を伸ばすのだが、敵はアッシュのことなど忘れたかのように生い茂る竹を見るのに夢中になっている。中には竹が根付いている地面を掘り返そうとしている者もいるようだ。


「タケノコでも探して食べるつもりなのか。いや、まさかな」


 竹の何が彼らの興味を惹いているのかはわからないが、アッシュが離れて行っているにも関わらず誰も追って来ようとしないことだけは確かだ。


「よくわからないが、これなら」


 根のついた竹を手にアッシュはまだ戦っているヒルデのもとに走った。







楽しんで頂けたなら幸いです。

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