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233 足跡

 手にした桃を見て、アッシュはため息を吐いて悩んだ。

 食べるつもりはないが、この異様な場所で実っていた正体不明なもの持ち続けるも何が起きるのかわからないので避けたい。


 だが、このまま地面に捨てるというのも躊躇ってしまう。

 今まで生き生きとして実っていたのにアッシュの勝手で採られ、不要になったからと捨てればそのまま腐ってしまうだろう。それはあまりにも忍びない。

 散々考えた結果、とりあえずペンダントに入れることに決めて手に持っている桃、全てを収納した。


「…入れたはいいけど、どうするかな」


 思わず呟き、ペンダントをいじっているとさっきからヒルデが静かなことに気が付いた。隣を見るとヒルデが口元を手で押さえて気分が悪そうにうつむいていた。


「大丈夫か、ヒルデ」


 アッシュの問いかけに彼女は小さく首を横に振る。


「臭いもそうなんだけど、ここに入ってからずっと何か気持ち悪い」


 彼女の言いたいことはアッシュにもわかる。鳥居を潜ってから二日酔いの時のような不快な頭痛と謎の倦怠感に襲われて彼も立っているのがやっとだからだ。


「でも、僕がこんなに調子悪いってことはあのおっきなネコちゃんに連れ去られたあの子はもっと辛いはずだよね。うん、弱音言っちゃだめだね」


 そう言って自らを奮い立たせるとヒルデは笑顔を向けてきた。無理をしているのがわかる笑みだったが、アッシュは何も言わずに頷いた。


 木の他に何かないかと下を向くと桃が潰れているのが見えた。自然に木から落ちたのではなく、何者かに踏み潰されたようだ。近づいてみると獣の足跡がくっきりと見えた。


「ネコちゃんかワンちゃんの肉球の跡みたいだね」


「これ、(ぬえ)の足跡か」


 鵺は胴体が虎だったはずだ。大きさも一致していることからここを通ったのは間違いないだろう。足跡はこの先の道へと続いているのが見える。


「…こっちに来いって言ってるみたいだな」


 鵺がただの獣ならばここで食い散らかした時に付けた跡だと思っただろう。

 しかし、あのように知性がある目をする生き物がそんな迂闊なことをするはずがない。

 おそらく、アッシュたちが追いかけやすいようにわざと付けたのだ。


 何を考えているのかはわからないが、その跡を追うしか彼らに選択肢はなかった。




 足跡を追っているのだが、鵺の姿は一向に見えてこない。高い崖が続くだけの景色から変化がないのもあって不安になっていると開けた場所に出てきた。

 また道がいくつも分かれているが、一先ず圧迫感から解放されてホッとしているとあの鳴き声が聞こえてきた。


「また、あの音」


「どこだ」


 声が聞こえると言うことは近くにいるはずだと思い、周囲を見回していると崖の上からじっとこちらを見ている鵺と目が合った。アッシュたちを確認すると鵺は分かれ道の一つに降り立つ。その背にはハヅキの姿はなかった


「…ハヅキちゃんはどこですか」


 逃げる様子のない鵺にゆっくり近づきながらアッシュは問いかける。鵺は何か意図があって彼女を連れ去ったはずだ。

 ならば、どこかでうっかり振り下ろしたなどあり得ないはずだ。そう自分に言い聞かせて柄に伸ばしそうになる手を抑えて聞いたのだが、鵺は微動だにしなかった。


「あれ、わかってて返事しないつもりだね」


 鵺の態度を見てヒルデはそう思ったのだろう。

 同意するように頷き、もう一度話しかけてみようと口を開こうとした時、アッシュたちから興味を失ったかのように視線を外して鵺は自分の後ろにある道の先を見る。


 そちらの方に何かあるのかと覗き込むと道の真ん中でハヅキが倒れているのが目に映った。


「ハヅキちゃん!!」


 思わず駆け寄ろうとすると鵺とは違う、敵意を持った何かの気配を感じて足が止まる。







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