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229 耐えて見守るということは

 何か思い出したのか楽しそうに笑うナデシコを横目にアッシュは小さくため息を吐いた。


「お疲れ、アッシュ君」


 終わったのを確認したヒルデが近づいてきて後ろから声を掛ける。その声に振り向いた彼はくたびれた顔をしていた。


「…本当に疲れた。

 でも、まあ、怪我させなかったからよかったよ」


 最初に襲って来た時も強いと感じていたが、正体がバレた後はこれ以上自分を偽る必要がないとわかったからか遠慮など微塵も感じられなかった。アッシュを殺すことも(いと)わない攻撃に対し、彼はナデシコを出来るだけ傷つけないよう、またそんなことを考えていると悟られないように立ち回らなければいけなかったので苦労した。


 加えて彼女が望んでいるのは刀だけの真剣勝負であることを感じ取ったアッシュは魔法なども使用できなかったので余計に大変だった。顔も名前も知らない相手ならば、そんな面倒なことをせず、殺さない程度に抑えて戦っていただろう。

 だが、彼女とその家族を知ってしまえばそんなこと出来なかった。


 離れて見ていたが、ヒルデにはそんなアッシュの苦悩がわかっていたようだ。ヒルデの顔を見ると安心して思わず弱音を吐いてしまった。近くにいるナデシコに聞かれたかもしれないと恐る恐る彼女の方を向くとちょうど地面に転がった薙刀を拾いに行っている所だった。どうやら聞かれていなかったようだと安堵し、しゃがむ彼女に向かって声を掛けた。


「ナデシコさん」


「何かしら」


 薙刀を手に立ちあがった彼女はアッシュに首を傾げて尋ねた。


「戦っていたときにはあのように言いましたけど、俺もこのままではいけないと思ってるんです。この先にある神社に行った後でミノルさんに話を聞きたいんですか、よろしいでしょうか」


 昨日は突然だったのでまだ覚悟が出来ていなかったが、ナデシコとこうして刃と言葉を交わしたことでハッキリとわかった。

 話をしなければミノルもそしてナデシコも前に進むことが出来ないのだと。


 そう決意して言ったのだが、彼女は返事をせずに固まっていた。何故そのような反応をするのかわからず疑問に思っているとようやく彼女は口を開いた。


「…そうね。なら、急がないでゆっくり、家に来てくださいね。

 ハヅキの礼とご迷惑を掛けたお詫びも兼ねておもてなししたいので」


 呆然としていたことを誤魔化すように口元に手を当てナデシコは昨日のような笑みを見せ、ヒルデの方を見た。


「ヒルデさんもごめんなさいね。心配したでしょ」


 問いかけられたヒルデはナデシコの言っていることが理解できないと言う顔をして首を横に振った。


「アッシュ君が負けるわけないって信じてたから」


 その言葉を聞き、ナデシコはハッと気が付いた。怪我などしていないにも関わらず彼女の手のひらが赤くなっていたからだ。

 思えば、アッシュと戦っている間、彼女はずっと拳を握っていた。おそらく、背負っている武器に思わず伸ばしそうになる手を抑えるためだったのだろう。アッシュを信じ、彼と交わした約束を守るために自らを律していたのだ。


「信じる。そう」


 先ほどアッシュがミノルに話を聞きに来ると聞いて不安が過ぎった。『イザナミ』の名を聞いただけで彼は思い詰めたような顔をしたのだ。

 その後、彼は普通の日常を過ごしているように見えたが、ナデシコには無理をしていることがすぐにわかった。


 必死に何でもないかのように取り繕っている彼が『イザナミ』のことを聞かれたらどうなるのだろう。もしかしたら、シゲルへの劣等感で圧し潰されていた時のように自信がなく、怯えたような表情をする昔の彼に戻ってしまうのではないか。

 そう考えると心配で仕方なかった。


 しかし、信じるというヒルデの言葉に気づかされた。

 どんなに手助けしたいと思ってもヒルデのように耐えて見守るべきだ。

 ミノルはもうあの頃のようになったりはしない。今の彼ならば『イザナミ』と真っすぐに向き合えるはずだ。そう信じているのならば。








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