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227 渡せない

上へと構えていた薙刀をナデシコは素早く下向きに持ち替え、そのまま振り上げて来る。迫って来る刃に気づいたアッシュは後ろへと飛んで避けた。


「だから、俺を襲ったと?」


攻撃を躱されたナデシコは不服そうな顔をしながらもそれ以上は深入りすることなく薙刀を構え直す。


「そもそも、『イザナミ』の本来の持ち主はミノルさんよ。奪われたから返してもらうのは当たり前のことでしょう。ついでにミノルさんを悩ませる原因を作った貴方に少しだけ痛い目を見てもらおうって。それの何がおかしいのかしら」


「…うわぁ、アッシュ君完全にとばっちりじゃん」


遠くの方で見守っていたヒルデが彼女の問いかけに思わず呟く。ヒルデの言うことにアッシュは思わず同意するように頷く。


「…泊ってくれといったのは?」


「あら、疑っているのかしら。失礼ね。

いくら貴方が憎くてもハヅキを見つけて家まで送ってくれたのよ。善意に決まっているでしょう」


光が見えないほどに暗い瞳を細め、刃を向けながら言う答えなど信じられるわけがない。

もし、彼女の勧め通り泊っていたら何をされていたことか。想像しただけでも恐ろしい。


誰かに自分のことがバレないように顔を隠したり、人目がない場所を狙って襲って来るところが、感情に振り回されている訳ではなくあくまで理性的であることが伺える。それがより一層恐怖を駆り立てる。


やり方は間違っていると思うが、奪われたものを取り返そうとしているだけと言われれば納得できる部分もある。

大きく息を吐き、アッシュは気持ちを落ち着かせた。


「貴方の言い分はわかりました」


「あら、わかってくれたのね。嬉しいわ」


薙刀を握る手をわずかに緩め、ナデシコは微笑む。

一方、アッシュは刀を構えるのを止めずに彼女を真っすぐに見つめた。


「ですが、渡せません」


思わぬ彼の返答にナデシコは呆気に取られた後、笑みを消して問いかける。


「…何故かしら」


目を閉じ、自分の心と向き合うが答えは変わらなかった。ゆっくりと目を開けてナデシコの瞳を見ながらハッキリと想いを口にした。


「『イザナミ』は尊敬する先生であるシゲルさんから託されたものであり、俺の仲間だからです」


以前の彼ならば、彼女の言葉に揺れていたかもしれない。

だが、誓ったのだ。信じてくれる彼らに恥じない自分であり続けると。


「『イザナミ』は奪われたものなのよ。何を言おうとも貴方が手にしているそれは盗品なの。わかっているのかしら」


「先生、いや、シゲルさんが無理やり奪ったと本当にナデシコさんは思っているんですか」


二人の間に『イザナミ』を巡って何があったのかわからないが、アッシュはシゲルがそんなことをする人間ではないことを知っている。ナデシコも本当は頭ではわかっているのだ。その証拠に彼女は何も答えずに黙ったまま立ち尽くしている。


だが、彼女の心はそうではないのだろう。

代わりに薙刀を握り、片足だけを前に出す。攻撃して来るという予感がしたアッシュは警戒する。


彼女は出した足を強く踏みしめ、こちらへと一気に距離を詰めて来る。下に向かって石突を振るのが見えたので受け止めようと刀を振る。

しかし、刀と合わさる前に彼女は素早く持ち方を変える。


足元を攻撃されると思ったアッシュは突然のことに対応できないのか、未だに刀を下に向けたままだ。陽動が上手くいったと彼女はほくそ笑み、頭を目掛けて薙刀を振り上げた。


「最初に会った時も俺の頭を狙っていましたよね」


「!?」


刃を振り下ろす前にアッシュは刀で受け止める。振り上げた薙刀は刀と合わさったままアッシュによって強引に下に向けられた。そのまま柄を沿わせるように刀を滑らせ、刃がナデシコに向かって来た。


避けられないと悟った彼女は、そっと目を閉じた。







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