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225 あるはずのない怪我

 それはシゲルの生家を出て薙刀の人物がミノルだという考えにアッシュが至った時のことだった。


『でも、なんか納得できないんだよな』


 確かに辻褄は合うのだが、何故か引っ掛かる。それが何かわからない限り決めつけるわけにはいかない。

 そう思い、どこに違和感があるのか思索するのだが、答えは出ない。


『? 何か言った』


 並んで歩くヒルデが聞き返すのだが、まだハッキリとしたことがわかっていないので無駄に彼女を悩ませるのは悪いと思い、アッシュは誤魔化した。


『あ~、いや、何でもない』


 彼女は不思議そうに首を傾げるが、それ以上、深く聞いて来ることはなかった。

 そのままヒルデと会話しながら思考を巡らせるのだが、違和感の正体はわからない。

 まるで前が見えない霧の中で姿が見えない何かを掴もうとしているかのようだ。


 明らかに何か悩んでいるという顔をアッシュがしていることにヒルデは気づいた。どうしたのか尋ねようとした時、彼女はアッシュに聞かなければいけないことをふと思い出した。


『そういえばさぁ、アッシュ君』


『なんだ』


『君、左腕、怪我してたの?』


 思いもよらない彼女の質問にアッシュは目を丸くした。

 薙刀の人物に腕を斬られたことは彼女も知っているはずだ。なのに、何故そんなことを聞くのか意味がわからなかったからだ。


『してただろう、ほら。

 って、あれ』


 斬られた左腕を彼女に見せるのだが、肌には傷一つなかった。そのことにアッシュは驚くのだが、彼女の方は対照的に落ち着いている。


『怪我してすぐに治したから、あるはずないよね』


 その言葉にアッシュはハッとした。

 怪我をしたまま薙刀の人物を追いかけようとした彼をヒルデは止めてポーションで治したのだ。腕を見ながら彼の頭の中に先ほどのミノルたちとのやり取りが蘇って来た。


『待て。じゃあ、何でナデシコさんは知ってたんだ。俺が左腕を怪我したこと』


 ――怪我をした左腕でおんぶまでしてわざわざハヅキを連れてきてくれたんですね


 彼女はそうハッキリと言っていた。怪我などしていないアッシュの腕を見ながら。


『う~ん、たまたま、あそこの近くを通ったから知ってたってことはないよねぇ』


 確かに、あの時、アッシュは誰かが近づいて来たのを感じて刀を振るのを止めた。それがナデシコだとしても近づいて来る前に傷を癒し、すぐに薙刀の人物を追ったのだ。自分たちの姿を見られたというのはあり得るかもしれないが、アッシュが左腕を怪我したことなどわかるはずがない。


 彼が傷を負ったと知っているのは、あの場にいてそれを見ていた自分たちと薙刀の人物だけだ。


『…まさか、ナデシコさんが』


 そう考えるとずっともやもやしていた違和感が何なのかわかった。

 ミノルは怯えた目をしていたが、よく思い出すとその視線はアッシュではなく、『イザナミ』に向けられていたのだ。最初に思った通り、ミノルが薙刀の人物でアッシュに恐怖を抱いたのだとすれば、その対象が刀だけであるはずがない。


 おそらく、ミノルは何か彼らが知らない理由で『イザナミ』を恐れていたのだ。その訳を知るのはミノル本人とシゲルだけであり、ここでアッシュが悩んだところで答えなど出るはずもない。


 しかし、ナデシコが薙刀の人物だとすれば襲って来た目的はなんとなくだが、予想が出来た。


『山に行くってナデシコさんたちに言ったからな。明日、そこで襲って来るかもしれない』


『待ち伏せしてくれてるなら手間省けていいねぇ。

 でも、またアッシュ君一人で相手するの?』


 アッシュと同じ考えに至ったのかヒルデは驚くこともなく問いかける。


『ああ。悪いな』


 ナデシコの目的は本人に聞かなければわからないが、狙いは間違いなくアッシュだけだ。

 いや、彼を通してシゲルを見ていると言った方が正しいのかもしれない。

 ならば、彼だけで戦わなければナデシコはきっと納得しないだろう。








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