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224 布で隠された笑み

「どうしたの、アッシュ君。また変な顔してるよ」


「…先生、だったのかもしれない」


 言葉の意味が理解できず、首を傾げるヒルデにアッシュは自分の考えを整理しながら話した。


「え、アッシュ君だけ、そんな面白そうなこと一人で楽しんでたの?

 僕も行ってみたかったのに」


 アッシュ自身でも信じられない話を聞いて彼女がどんな反応をするだろうかと構えていると羨ましそうな表情で責められた。


「いや、そうなのかもしれないって俺が勝手に思っただけで違うかもしれないんなんだが」


 彼女ならあり得ないと言って否定しないとは思っていたが、すねてむくれてしまうのは流石に予想外だった。どう(なだ)めればいいのかと頭を悩ませていると急に頬を膨らませるのを止めてヒルデは微笑んだ。


「まあ、いいか。アッシュ君の悩みが解決したんだったら何でもさ。

 あ、でも今度行くときは僕も誘ってよね」


「…そんな気軽に行くものじゃないだろ、過去って」


 そもそも次があるのかすら、巻き込まれただけのアッシュにはわからない。期待した目で見て来るヒルデに誤魔化すように少年の話などをしながら寺を目指して歩いた。




 朱色の灯篭の光がポツポツと見えるがまだ辺りは暗く、道の先はまだハッキリと見えなかい。どこかこことは違う場所に吸い込まれるのではないかと勘違いしそうになるほど夜の暗部(くらぶ)山は恐ろしいと思うのに目が逸らせないほどに神秘的だった。


 だが、夜が明け、太陽が昇って来るとその日を受けて明るくなると徐々に昨日見た景色へと変化していく。視野が開けるようなこの景色は朝の時間に来なければ体験できなかっただろう。


 勧めてくれたミノルに感謝しながら階段を上ると建物の前に人が佇んでいるのが見えた。

 僧侶のような恰好、顔を覆い隠すように巻き付いた布、そして薙刀を持つその姿は間違いなく、アッシュたちが取り逃がした人物だった。


 彼を見ると相手は手に持つ薙刀をゆっくりと構え、少し触れただけで斬られてしまいそうなあの静かな殺意をこちらに向けて来る。


 目でヒルデに手を出さないように伝えると不満そうな顔をしながらも戦斧へと伸びた手を下ろした。我が儘を許してくれた彼女に微笑むと鞘から刃を抜いて構える。


 お互い武器を構えながら出方を見ていると相手の筋肉が力んだ。

 仕掛けて来ると感じ、構えてると見えないほどの速さで薙刀を彼に向かって振る。


 前に先制攻撃が成功したので今回も同じようにすればと考えたのかもしれない。

 あの時は油断していたのもあって腕を斬られてしまったが、自分を殺すつもりだとわかっている相手を前にもうそんな間抜けなことをするはずない。


 落ち着いて見ると速いと思っていた薙刀は少年の木刀よりも遅い。彼と戦った後ではその軌道は容易に読めた。

 向かって来る刃の側面を弾き、ひるんだところで一気に距離を詰める。攻撃が失敗するとは思っていなかったのか近づいて来るアッシュに相手は一瞬息を呑む。


 隙を逃さずに刀を振るが、避けられてしまった。

 だが、完全に躱すことはできなかったようで胴の部分が裂けているのが見える。相手は悔しそうに薙刀を握る手に力を籠めると今度はアッシュの足元を狙って刃を振った。


 そう来るだろうと予想がついていた彼は刀を下に向けて振り、薙刀に当てた。今度は弾かず、薙刀の柄に沿うように刃を滑らして相手へと近づき、刀を振り上げる。


 残念ながら刃が当たる直前にアッシュの狙いに気づかれ、避けられた。

 しかし、相手の構えが若干乱れていることから前回とは異なるアッシュの動きに動揺しているのがわかる。少年の稽古に付き合う形でしていた手合わせだが、アッシュとしても彼から学ぶものがあったようだ。


 それだけではなく、相手の正体とおおよその目的がわかったから戸惑いがなくなったというのもあるだろう。刃を目の前にいる相手に向けながらアッシュは問いかけた。


「どうしてこんなことをするのか聞いてもいいですか、()()()()()()


 アッシュが名前を呼ぶと目の前の相手が動揺しているのが伝わる。


「答えてくれませんか」


 やはり、そうなのだと確信して彼がもう一度問いかけると大きな笑い声が辺りに響いた。薙刀の人物は肩を震わせながら顔を隠す布に手を掛ける。

 すると昨日会った時と変わらない優しい笑みを見せるナデシコがいた。







楽しんで頂けたなら幸いです。

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