23 危険を顧みず
受け身もとれず地面に投げ出されたが、草木がクッションになったようで、見たところ大きな怪我もなかった。
ミントは急いで立ち上がろうとしたが、足に激痛が走った。落ちたときに足を捻ってしまったようだ。なんとか杖を支えにして立ち上がろうとした彼女の脳裏に魔物が放った魔法に古代エルフ魔法が負けた光景が浮かんだ。
いや、魔物ごときの魔法に古代エルフ魔法が負けるなどありえない。
あれは、詠唱を急いだために不完全だったからだ。完全な状態の魔法だったならそんなことはなかったと怒りに奥歯を噛む。
痛みで、なかなか立ち上がれずに苦戦していると地面に影が差すのに気がついた。
顔を上げると何匹ものブラックウルフがミントを囲んでいた。
助けを求めるようにアメリアたちを見るが、ブラックウルフと戦っており、こちらへ助けに来られるようではない。
逃げようにも囲まれて逃げられない。もし、逃げられたとしてもこの足ではすぐに追いつかれてしまう。
ならば、魔法を使えば、ブラックウルフを倒すことが出来るかもしれない。倒すことが出来れば、逃げられる。
「ぇ、あぁ」
覚悟を決めて魔法を使おうとするが、恐怖で震え、歯の根が合わないミントの口からでたのは意味のない言葉だった。
どうにかできないかとすがるように周囲を見ると、ミントを囲んでいるブラックウルフから少し離れたところにリーダーが佇んでいるのに気がついた。
ミントと視線が合うと嬉しそうに嗤った。
リーダーが嗤ったのを見て悟った。奴はミントが仲間のブラックウルフたちにいたぶられ、惨めに死ぬのを近くで見るためにここに来たのだと。
自分がどうなってしまうのか理解すると手足が震えた。冷や汗も止まらない。
どうにかしなければと考えるが何も思い浮かばない。
ミントは恐怖で座り込んでしまった。こちらを見て嗤っているブラックウルフたちを見上げ、ただ、死にたくないという思いだけが頭を占める。
「目を閉じて、息を止めろ!!」
何故と思うよりも、ミントは声のいうことに従った。目をきつく閉じ、口に手を当て呼吸をしないようにする。
すると、ブラックウルフたちの悲鳴のような声が上がったと思えば、自分の体が浮いたように感じた。次に風を切るのを感じ、自分は誰かに抱きかかえられて移動しているのだと思うが、目を閉じているため確認が出来ない。
「アッシュさん、こちらです」
「マリーナさん、もう一度、結界を!!」
「はい!」
アッシュの声が何故するのかと思うと結界を通る感覚があり、地面に下ろされた。
おそるおそる目を開けるとアッシュが膝をつき、肩で息をしていた。
「アッシュさん、水です。これを使ってください」
火事になった時のためにとアッシュに全員が持たせた水が入っている容器をマリーナがアッシュに渡していた。水を受け取ると彼は自分の頭に水を掛け、息を整えていた。
「ミントさん、お怪我は?」
「足を捻っただけ」
マリーナは跪き、ミントの足に回復魔法を使った。
ミントたちは今、背の高い草木が生い茂り、姿が見つけにくい場所に隠れているようだ。
敵に見つからないように、そっと自分が先ほどまでいた場所を見ると赤いモヤが広がり、ブラックウルフたちが転げまわっていた。
ブラックウルフたちを指さし、ミントは尋ねた。
「マリーナ、あれ、何があったの」
爆発があったとき、マリーナはアッシュが咄嗟に覆い被さったことで投げ出されずに済んだ。
怪我がないかと確認しているとミントがいないことに気がついた。あの爆風で飛ばされたのではないかと辺りを見回すと彼女がブラックウルフたちに囲まれているのが見えた。
アッシュはマリーナにブラックウルフたちに見つからない場所に隠れるように指示を出すとミントのもとに全力で走った。
そして、ミントの近くまで来たアッシュは香辛料が入ったボールすべてをブラックウルフに投げつけた。
壊れたボールは最初に彼が投げたのと比べものにならないぐらいの大きなモヤとなりブラックウルフたちを包み込んだらしい。
そのモヤのなかミントを見つけ、マリーナが隠れる場所まで抱えて走ったのだそうだ。
アッシュはブラックウルフを前にためらうこともなくミントを助けに走ったのだ。
ブラックウルフたちが泣き叫ぶようなあの香辛料のモヤのなか、自分もモヤを吸い込むことになるとわかっていても彼女を探し、助け出した。
まだ、荒い息を吐くアッシュをミントは信じられないという気持ちで見つめた。
今日は12時にも投稿するのでよろしくお願い致します。
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