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213 動く布

 神社に繋がる道を覗くと木の根がむき出しになっているのが目に映った。森のような場所なので根の数は多く、まるで地面が波打っているかのように見える。

 珍しい光景に驚きながらも木の根を踏まないよう気をつけながら先へと進む。


「根がうねうねしてるねぇ。何でだろう」


 ヒルデの問いかけに同じく疑問に思っていたアッシュは地面を触りながら答える。


「岩みたいに堅いな。それで深くまで根が入り込めなくてこうなってるみたいだな」


 しゃがんでいたアッシュはすぐに立ち上がり、もう一度大地に姿を見せている木の根を眺める。地中に隠れている時は何も思わなかったが、こうして見ると自然の雄大さを改めて考えさせられる。この景色を記憶に留めておこうと立ち止まって辺りを見回しているとおかしなものが目に映った。


 鮮やかな布が落ちているのだが、時々動いているようだ。あれはおそらく、布ではなく着物を着た人なのだろう。

 しかし、何故あんな道に外れたところにいるのかがわからない。


「あれ、何やってるんだろうね」


 ヒルデも目を凝らしているが、よく見えなかったようでアッシュに尋ねる。


「もしかして、怪我してうずくまっているのか」


 アッシュたちのようにこの光景を見ることに夢中で足元への注意が疎かになり、転んで動けないのかもしれない。

 その可能性に思い至ったアッシュは木の根を踏まないようにしながら着物の人物へと向かった。近づくにつれて姿がハッキリ見えるようになるとうずくまっている人がとても小さいことに気が付いた。着物の明るい柄や長い髪の毛から察するにどうやら、幼い女の子のようだ。


「君、大丈夫?」


 目線を合わせるためにしゃがんでアッシュが声を掛けると子供は顔を上げた。目には涙を浮かべており、頬に土がついている。体に葉っぱがいくつもくっついて髪が乱れていることからやはり転んだのか、もしくは迷子になったのかだと確信した。


 少女はアッシュを見て怖気づいたように震えている。背が高い男に上から話しかけたのでは怯えられるかと思い、屈み込んだのだが無駄だったようだ。

 どうしたものかと悩んでいると後からやって来たヒルデが少女を見てアッシュと同じように座り込んだ。


 そして、そのまま手を伸ばして彼女の体に着いた汚れを払う。彼女は未だ口を開こうとしないが、ヒルデが女性ということもあってか警戒心が薄れた。


「もう立てるかな?」


 ヒルデが優しく声を掛け、手伝いながらゆっくり立たせると彼女の膝が擦りむいているのに気が付いた。


「怪我してるな」


 アッシュの言葉を聞いてそこに視線を向けたヒルデは何もない空間からポーションを取り出した。


「本当だね。ほい、これで治ったよ」


 ポーションを使うと傷がすぐに癒えるのを見て少女は目を丸くして二人へと顔を向けた。その驚いた表情が年相応で可愛らしかったので思わず微笑む。すると彼女は恥ずかしそうにうつむき、手をもじもじさせながら口を開いた。


「ありがとう、ございました」


「ん、どういたしまして。他に怪我してない?」


 ヒルデの問いかけに少女は小さく頷いた。大したことがなかったとアッシュは胸を撫で下ろし、今度は怖がらせないように出来るだけ優しく尋ねた。


「ここには一人で来たのかな?」


 アッシュの声を聞くと彼女は肩をビクッとさせた。首を傾げながら答えを待っていると恐る恐る顔を上げて小さく呟いた。


「…うん」


 辺りに自分たち以外誰もいなかったのでそうだと思っていた。

 気づかれないように静かにため息を吐くとアッシュはこれからどうするかを考える。子供の足で今から山を下りたとしても夜になってしまう。

 もし無事に下りられたとしても危険な夜道を子供一人で歩かせるということを思うとこのまま彼女を放っておくことはできない。







いつも誤字脱字の報告ありがとうございます。

自分では気づない上に致命的な間違いもあったので本当に感謝しております。

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