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212 六芒星の床

 あの少年のことを深く考えるのは、今は止めて山道を登ることにした。道中であの奇妙な生き物の(ぬえ)だけでなく、ここに来るまでに出会った行き交う人々の姿を見かけることもなかった。

 しばらく行くと道は急に綺麗になり、代わりに先が見えないほどに長い階段が見えた。


「まだ上に行かなきゃいけないんだね」


 二人とも体力はあるのでここまで登って来ても息を乱すということはないが、一向に目的地が見えないので精神的な疲労を感じ始めていた。


「この階段を上ったらすぐなんじゃないか?」


「よし、じゃあ、もうちょっと頑張る」


 階段は確かに長いが緩やかなのでのんびりと会話をしながら登れる余裕があった。何段が上っていると建物のようなものが見えてきた。それ以降、一段一段上がるごとに寺の全容が見えてきた。


「到~着!!」


 ようやく目的の場所に着いた喜びでヒルデは拳を突きあげる。彼女につられて笑いながら前を見るとアッシュはたどり着いたことの達成感と目に映る建物に胸を震わせる。


 毘沙門天が祀られているという寺は横に広い趣のある佇まいをしており、派手さはないが、落ち着いた雰囲気だ。山の中ということもあり、葉が擦れる心地のいい音を聞きながら見回していると門のところでも見たあの虎の置物があるのに気が付いた。


「ネコちゃん、またいるね」


「ああ、そうだな」


 門に置かれていた時はお互い向かい合っていたが、ここでは正面を向いていた。それは、悪しきものは何人たりともここを通らせないという神前を守るものとしての正しい姿だと感じさせるほどの風格だった。

 ヒルデは気に入ったあの置物に再び会うことが出来たことが嬉しいのか声が弾んでいるようだ。


 しかし、すぐに静かになったので不思議に思い、彼女の方を向くといつの間にかしゃがみ込んで地面を見ていた。


「それにしても床、面白い形してるねぇ」


 建物だけしか見えていなかったが、その言葉を聞いてアッシュも改めて目を下に向けた。

 確かに、彼女の言うように見たこともない特徴的な形をした石畳だ。三角形をした二種類の色違いの石が規則正しく交互に敷き詰められている。

 だが、中心は六角形になっており、全て黒い石で構成されている。その真ん中に三角形の明るい色の石が一つだけ埋め込まれていた。


 そこを覗き込みながらヒルデが問いかける。


「なんか意味あるのかな、これ」


「さあな。でも六角形のやつ似てるな。アオイさんがキョウガ島を探る時に現れたのと」


 寺の前に敷かれた中央の床とアオイの足元に浮き出た魔法陣はどちらも三角形を上下に合わせたいわゆる六芒星と言われるものでとても似ていた。

 何か関係があるのかと考えていた時、ヒルデが顔を顰めていることに気が付いた。おそらく、アッシュがアオイの名前を出したので彼のことを思い出してそのような表情をしてしまったのだろう。


 本当に彼のことを嫌悪しているのだなと苦笑しながら前に進み、二人で参拝を済ませた。

 ふと寺の後ろに顔を向けるとまだ山道が続いているのが見えた。


 ツグミに教えてもらった時にヒノカグツチから流れた血によって産まれた水神であるタカオカミを祀る神社に行く道を説明してもらった。その時に山道を再び登ることになるが、寺からも行くことが出来るとも教えてもらった。

 おそらく、神社と繋がっている道というのがそこなのだろう。


 興味はあるが、もう日も大分傾いて来ているので今から行ったのでは山を下りる頃には夜になっているかもしれない。

 どうしたものかとアッシュが腕を組んで悩んでいるとヒルデが少し離れたところから手を大きく振っているのが見えた。


「こっちから神社に行けるみたいだよ、アッシュ君」


「え、行く気なのか」


 驚きながら聞くと彼女はキョトンとした表情をした。


「え、だってアッシュ君に気なってるんだよね。なら行こうよ」


 自分ではそんな素振りを見せたつもりはないのだが、彼女にはお見通しだったようだ。自分が迷っている時、自然に背中を押してくれる彼女の存在をありがたく思いながらアッシュは頷いた。







楽しんで頂けたなら幸いです。

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