21 竜巻
のたうち回るブラックウルフはたまらず走り出し、助けを求めるようにアメリアと戦っている仲間のもとへ向かった。
その時、ミントの詠唱が終わり、いつでも魔法を使えるようになった。ミントはマリーナを見てうなずいた。ミントの合図を確認したマリーナはアメリアたちに大きな声でその場を離れるように伝えた。
マリーナの声を聞いたアメリアたちはブラックウルフとの戦いを止め、ミントの魔法の範囲外まで走った。
急に戦いを止めて走り出したアメリアたちをブラックウルフは訳がわからずただ呆然と見送った。ブラックウルフたちが仲間同士で顔を見合わせていると、強い風が辺りに吹き荒れる。
「―――切り裂け、竜巻」
ミントの放った魔法は竜巻となり、周囲のブラックウルフたちを巻き込んで舞い上がり、風の刃で切り裂いた。
竜巻が静まったあとは、切り裂かれ、絶命したブラックウルフたちが地面に転がった。
他のブラックウルフは見当たらず、これでリーダーだけになった。
威力の高い古代エルフ魔法は中距離までしか発動することが出来ず、ブラックウルフのリーダーまでは届かなかった。リーダーの無傷な姿を見たミントは知らずに杖を強く握った。
魔法が静まってすぐアメリアたちはリーダーのところまで素早く走った。
自分の方に向かってくるのに気がついたブラックウルフのリーダーはアメリアたちの方に走ってきたと思えば、突然、姿が見えなくなった。
「どこに行ったの」
気配は感じるが姿が見えない。アメリアたち思わず立ち止まり、ブラックウルフのリーダーの姿を探して周囲を見回していると、急に姿を現し、キースに前足を振り上げ、攻撃をしてきた。
間一髪のところでキースは剣で攻撃を受け止める。リーダーはキースが攻撃を受け止めていることなどかまわず前足に体重を掛け、攻撃をしようとしてくる。
思っていたよりも重い攻撃にキースが押し負けてしまいそうになったとき、アメリアがリーダーに向かって剣を振り下ろした。
確実に斬った、そう思ったが斬った感覚がない。思わぬことに戸惑っていると横から気配を感じた。
気配の方にリーダーの姿を確認して、アメリアは反射的に剣を横に振り抜いた。
しかし、攻撃は躱され、そのまま攻撃しようと前足を振り上げる。そこにキースが斬り掛かるが、難なく躱された。
リーダーが姿を現すたびにアメリアたちは剣を振り、攻撃するが、全て躱されてしまう。
攻撃が当たらないことで焦りが生まれる。
リーダーの方は余裕そうに嗤っており、わざと姿を見せ、攻撃を躱すことで、アメリアたちで遊んでるようだ。
死角がないように背中合わせで戦っているが、次第に攻撃を避けられないことが増え、アメリアたちのダメージが蓄積していく。背中越しにお互いの疲労が伝わってくる。
「何で姿が見えないの?姿が見えなくなる魔法でも使ってるの?」
何度攻撃しても躱されることに苛立ちを抑えることが出来ない。姿が見えず、いつ襲ってくるかわからないので警戒を解くことができず、気を張ることを止められないことも腹立たしい。
「いや、魔法を使っているなら気配も消えるはずだ」
だが、気配は消えるどころか、自分の存在を強調することでアメリアたちに圧力を掛け続けている。
「おそらく、奴は桁外れのスピードで移動しているんだ。
ただ、僕たちの目が、奴のスピードを追えないから、姿が消えたように見えているだけだと思う。
それに他よりも視界が広いとはいえ、ここは森だ。木が視界の邪魔になり、余計にそう見えるんだろう」
何故、姿が見えないかわかったが、どうすればいいのだろうとアメリアが剣を強く握ると急に気配が消えた。
どこに行ったのかと辺りを見回しているとミントが魔法を使う声がした。
「束縛の鎖」
ミントが魔法を使うとブラックウルフのリーダーの声が辺りに響いた。
声がした方を見ると少し離れた所で、ミントが魔法で作った鎖で拘束されたリーダーの姿があり、拘束を解こうと体をくねらせている。
リーダーの重く、鋭い攻撃を受けたアメリアたちは、彼女の魔法はそう長く保たないだろうと感じた。
しかし、魔法が保っている間に奴を攻撃出来ればとアメリアたちはリーダーの所へ向かった。
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