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197 全てを見透かす瞳

 アッシュが疑問に思っていると湯呑が差し出された。顔を上げると男がいつの間にか側に来ていた。様々な戦いを経験してアッシュは遠くの魔物や人の気配を感じられるようにまでなった。なのに、近くに来るまで気配を感じられなかったことに驚いていると男が口を開いた。


「ユカリが強引に誘って申し訳ありません、迷惑だったでしょう。お茶、どうぞ」


 謝っているにも関わらず、男は無表情だった。ユカリと呼ばれた彼より年上に見えるがそれほど離れていないようだ。


「いけずなこと言いなや、ツグミ」


 小言のようなことを言われて彼が文句を言ってもツグミはいつものことのように流している。


「それより、お二人にまだ名前も言っていないのではありませんか」


 ツグミに言われて初めて気が付いたというように優雅に扇を閉じる。勘違いかもしれないが、自分がどう見られているかがわかっているような仕草がやけに芝居掛かって見えた。


「せやったなぁ、僕としたことが忘れてたわ。

 改めまして、僕はユカリ。年中藤が咲いてるこのおかしな屋敷に住んでます。

 で、これがツグミ」


 存外な紹介にも関わらずツグミは気分を害した様子もなくアッシュたちに頭を下げた。


「あ、俺はアッシュです。こちらこそ、お邪魔しているのに紹介が遅れて申し訳ありませんでした」


 アッシュの名前を聞いた途端ユカリは目を見開く。その表情は今までのわざとらしいものとは違って本当に驚いているように見える。

 故郷ではよくある名前なのだが、オノコロノ国にはいないので珍しがっているのだろうかと考えているとようやく彼が口を開いた。


「アッシュ。

 …そう、アッシュなぁ」


 名前を何度か呟くとユカリは面白そうに口角を上げる。それは、さっきまでの作り物のような笑顔と違って背筋がぞっとするほどに美しい笑みだった。


「そちらの可愛らしいお嬢さんは?」


「ヒルデ、です」


 ユカリの雰囲気に呑まれながらも答えた彼女に満足そうに頷くと再び彼は問いかけた。


「二人は何でここに? 道にでも迷うたんかな」


「え? 何でわかるの」


 ヒルデの疑問にユカリはおかしそうに笑いながら答えた。


「ここに来るんは、怖いもん知らずのアホか道に迷てしもうた人だけや。すぐにわかるわ」


 おそらく、ゲンが聞いたような噂を知っている者は近寄ろうとしないのだ。それ以外は用事があって屋敷を訪れるか、彼の言っているような人しか来ないのだろう。


「はい。テング、いや、暗部(くらぶ)山に行こうかと思っていたのですが、迷ってしまって」


「そこに行くってことは、『イザナミ』を打った職人からヒノカグツチのこと聞いたってことやんなぁ」


「え?」


 ここに来るまでにアッシュたちが何をしていたかを知っているような物言いに思わず彼の方を向くとニッコリと微笑んだ。その顔を見てゲンの言葉が脳裏を過ぎった。


 ――未来が見えるっていう凄い能力があるんだが、病弱でその屋敷から出られないって人がそこに住んでるんだと


 最初からアッシュたちが来るのをわかっていたようだと思ったが、ゲンが言っていたことが本当だとすると気のせいではなかったというのだろうか。


「どうなんかなぁ、アッシュ君」


 予想も出来なかったことを聞かれたことに混乱し、躊躇っているとユカリが再び問いかける。ゆったりした口調で決して強引な言い方ではないのに早く答えろと迫られていると感じた。


「…何で、そんなこと知ってるの」


 ヒルデの当然の問いかけに彼は微笑むことで返事をする。

 まるで、アッシュたちの反応を楽しんでいるかのような表情、そして全てを見透かすような瞳に嘘やごまかしは効かないと察した。







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