20 不気味なブラックウルフ
準備を整え、森へ入るといつもと違う異様な雰囲気を感じた。
「キース、気がついてる?」
「ああ、見られているようだね」
鋭い視線を森に入ってから感じる。どうやら、ブラックウルフたちに目を付けられているようだが、向こうから仕掛けてくる気配がない。
見られていることはわかるが、どこにいるか、何匹いるのかなど正確にはわからないため、こちらから仕掛けることができない。
「このまま、進むしかないわね」
「ミントはいつでも魔法を使えるよう準備を。マリーナは僕とアメリアに防御を上げる魔法と、結界を。奴らがいつ仕掛けてくるかわからないからね、アッシュくんは二人から離れないように」
三人がうなずいたのを確認するとキースは歩を進めた。アメリアたちが動くとブラックウルフたちの視線も同じように動くのを感じる。
アメリアたちの姿を確認しているはずなのに何も仕掛けてこないのがひどく不気味だった。
視界が開けた場所に来ると通常よりも大きなブラックウルフが立っているのが見えた。
おそらくリーダーだろうと思われるブラックウルフは、アメリアたちを見つけると三日月のように口角を上げる。それは、こちらを見てにやりと嗤ったように見えた。
すると、音もなくアメリアたちの周りにブラックウルフが現れ、取り囲まれた。
リーダーと同じように嗤うとアメリアたちに襲いかかってきた。
アメリアとキースはお互いに顔を見合わせ、頷き、目の前のブラックウルフに斬り掛かった。
マリーナは自分の周りの結界を維持しつつ、襲いかかるブラックウルフを手に持っている棍を振り、攻撃する。当たってもダメージはあまりないが、近寄らせないように邪魔をすることが出来る。
ミントはアメリアたちが戦闘を始めたのを見るとすぐに詠唱を始めた。
彼女の魔力の気配を感じ取り、何かしようとしているのを感じたブラックウルフたちの攻撃は激しくなる。どうにかして結界を壊そうと必死な姿が視界に映り、どうしても詠唱に集中することが出来ない。
ブラックウルフを倒すことの出来るアメリアたちはリーダーの元に向かうために進行の邪魔をするブラックウルフを蹴散らしつつ、出来るだけ一カ所に集めるように戦っているため、どうしてもミントたちと距離が離れている。
マリーナが結界の周囲に居るブラックウルフたちを近づけさせないように頑張ってくれているが、敵は怯むことなく襲い掛かってくる。
なんとか詠唱を途切れさせないようにしていると、アッシュが十分離れたなと呟くと何かボールのような物をブラックウルフたちに向かって投げた。
投げたものは躱されたために当たらなかったが、地面に落ちて壊れたと思えば、赤い何かを含んだモヤが広がった。
アッシュはかまわずにそれをブラックウルフたちに向かって投げる。
しかし、ひとつも当たらず、全て外れた。攻撃が外れるたびにあたりに赤いモヤが広がるが、モヤは結界には入らず、周囲を漂っている。
用意していたものが尽きたのか、アッシュが投げるのを止めた。アッシュの攻撃が止み、たいした攻撃ではなかったとにやにや嗤うと、ブラックウルフは再び攻撃を仕掛けようと前足を上げたが、そのまま動きを止め、目を見開いた。
何故と思うと、ブラックウルフたちは突然、悲鳴のような声を上げ、涙を流しのたうち回った。
「…何が、起きたのでしょうか」
呆然と呟き、マリーナはアッシュの方を向き、説明を求めた。何か起こったとすれば、アッシュが投げた何かが原因としか考えられない。
「一口食べるだけで胃や腸が焼けただれると言われる香辛料が入ったボールだ。それが目や鼻に入ってこちらを攻撃するどころじゃなくなったんだ」
漂っている赤いモヤが香辛料なのだろう。
しかし、戦闘に入ってすぐに使用すれば、結界の外にいるアメリアたちを巻き込んでしまう。
だから、アッシュはモヤが広がると思われる範囲から彼女たちが十分距離が離れたのを確認して使用したのだろう。
当たればいいが、当たらなくてもあたりに漂うモヤを吸い込みブラックウルフたちが攻撃出来なくなると考えた上で使用したのだ。
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