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183 彼女が嫌う理由

 あの後、アッシュたちはすぐに宿を見つけて一泊し、旅で疲れた体を癒した。日が昇り、宿を出ると夜とは違う姿のウエノ都が彼らを迎えた。


 厳かな雰囲気はそのままなのに道行く人々の話し声が加わることで明るい街へと様変わりしていた。目的地であるシゲルの友人である刀鍛冶の工房がある場所に向かいながらウエノ都を散策する。どれも見たことのないものばかりで歩くだけでも異国の文化を感じられて楽しい。


「アッシュ君の先生の友達って人の家ってどこらへんなの」


「街の中心から少し外れたところらしい」


 シゲルからは大まかな場所のことは聞いているが、わからなければ刀鍛冶のオカザキの工房はどこかと人に聞けばいいと言われている。彼が言った通り道を尋ねながら歩いていると話し声がアッシュたちの耳に入って来た。


「聞いた? ここ最近刀を狙って奪ってたってやつが捕まったらしいわよ」


「しかも、それをするように唆したのがここらでは大きい家の貿易商の娘さんだそうよ。家全体で関わってたんじゃないかって色々話を聞かれてるんですって」


「まあ、悪いことって出来ないものね。あ、娘といえば――」


 耳を澄ませていたが、それ以上は関係のない話を延々と続けているので怪しまれないうちにアッシュたちはすぐにその場を去った。

 開いている店を覗いたりして二人で歩いているとヒルデが疑問を口にする。


「昨日の今日なのに展開早くない?」


 彼女が言っているのはアッシュの刀を狙っていたあの男と唆した女性のことだろう。


「どちらかが目を付けられてたんじゃないか」


 そうだとすれば、すぐに男が捕まり、女性の家も事情を聞かれているというのも納得だ。おそらく、目星はついていたのだろうが、きっかけがなかなか掴めなかった。そんな時にアッシュに倒されている姿を見つけて踏み込んだといったところか。


「…まずいな。顔、見られたかな」


 そうだとすると男を捕まえるために近くに人が潜んでいたかもしれない。誰もいなかったかと思うが、戦っている際に一瞬頭に血が昇ってしまい、周りが見えなくなってしまったのでハッキリと断言することができない。


 アッシュとしては後ろ暗いことは何もしていないので事情を聞かれるだけならばいいのだが、証拠品としてこの刀を押収されてはたまらない。取られた後、無事に返って来るという保証もないので関わらないのが一番だ。


 今更ながら、仮面を着けていた方がよかったかと後悔が押し寄せて来る。


「少なくともアッシュ君が戦ってた時には人の気配はなかったから安心して。宿に行くまでも尾行されてるってこともなかったし」


「本当か」


 自分だけなら不安だが、ヒルデがそういってくれるのならば安心できる。


「うん。またあの嘘つきが襲って来るかもしれないって思って、僕、警戒してたから」


「なるほど、そういうことか」


 あの男一人ならばアッシュだけで十分だという確信があったのもあるだろうが、一番の理由はそれだったのだろう。ヒルデは前の時のように不意打ちで攻撃されないように見張っていてくれていたのだ。


「でも、ヒルデは何でそんなに彼を嫌うんだ?」


 大切な人がアッシュに殺されると聞けばあのような態度を取ったとしても無理はない。確かに身に覚えのないことで命を狙われたことについては思うところはあるが、渦が無くなったあと、人柱が今後も必要ないことを周知させたのは彼だと聞いている。

 それを聞いてアオイは決して命を蔑ろにするような人間ではないとアッシュは思ったのだが、彼女は違うようだ。


「だって、あいつ苦しんでるのを怒ってるって言った嘘つきだし、こっちの言い分も聞かないで襲って来るなんてありえない。しかも、アッシュ君が誰かを殺すだなんてひどいよ。

 そもそも、当事者のアッシュ君はもっと怒るべきだと思う!!」


「あぁ、そういうことか。いつもありがとな、俺の代わりに怒ってくれて」


「もお、アッシュ君、呑気すぎ!!」


 彼としてはひどい目にあったとは思っているが、ヒルデが大した怪我をしていないのもあってそこまで怒ってはない。むしろ、誤解を解けば分かり合えるのかもしれないなどさえ思っている。








誤字脱字の報告、ありがとうございます。いつも大変助かっております。

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