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180 ウエノ都

「うわぁ、すご。」


「…これが、ウエノ都」


 フクハラ藩でアッシュの体が回復すると二人は徒歩でウエノ都へと向かった。道中でアオイが襲って来るのではないかと構えていたが、特に何のトラブルもなく着くことが出来た。


 少し拍子抜けだったが、まだ日があるうちに着くことが出来て良かった。

 胸を撫で下ろしながら顔を上げると茜色に染まる空が目に入る。その夕焼けを背景に映すウエノ都はアッシュたちが見たこともないほどの美しさだった。


 フクハラでは降りてすぐに知らない光景に目を奪われると同時にエジルバ王国など他国の文化が多々見られたのでどこか懐かしさも感じた。

 また、国際的な港があることで人々の活気のある声が常に聞こえて心が弾んだ。


 対して、ウエノ都は整理されたように真っすぐに規則正しく並んで建てられた家々が最初に目に映る。どれもオノコロノ国独特の建築様式をしており、木の良さをそのまま用いている。

 なので、派手さはないのだが、それがウエノ都の上品な静けさと近寄りにくいような厳かさを際立出せる。


 そんな雰囲気のある建物から漏れた柔らかい灯りが薄暗い道を優しく照らす。まるで自分が異世界に入り込んだかのような景色に呼吸をするのも忘れるほど見とれた。


 もう夜になってしまうので宿を探さなければいけないのだが、ウエノ都のあまりの荘厳さを前にすればそんな些細なことは忘れてしまう。美しい光景に圧倒され、どちらも黙ったまま都を歩いているといつの間にか並んでいた家が途切れ、湾曲した橋まで出てきた。


 ここに来るまで誰もすれ違わないのもあって夢の中にいるようだったが、ようやく落ち着いてきた。そのまま進み、橋の真ん中まで来るとアッシュたちはようやく口を開いた。


「僕も色々旅してきたけど、こんなにすごいところ初めて来たよ」


「ああ、俺も」


 ウエノ都は、正しく雅な和の風情が感じられて目が離させないほどの洗練された優美さだった。ティーダとフクハラでオノコロノ国の文化などに触れた後なので、都と言えどあまり変わりないだろうと考えていた。

 しかし、その予想はいい意味で裏切られた。


 橋の上で流れる川を見て余韻に浸りながら二人で楽しく話し合っていると誰かが向かって来るのを感じた。端にいるので通行の妨げにはならないだろうとそのまま会話を続ける。


 ドスドスという音が聞こえてきそうな歩き方で体が大きいことからおそらく男性だろう。ハッキリと言えないのはその人物が顔を布で覆っているためによく見えないからだ。


 すぐに通り過ぎると思っていたが、男はアッシュたちの側に来ると立ち止まったまま動こうとしない。僧侶のような恰好をしていることから修行中の僧で道を聞きたいのだろうかと男が尋ねて来るのを待っているのだが、一向に口を開く様子はない。


「あの、何か?」


 アッシュが問いかけるも彼は答えずにじっとこちらを見ている。顔は見えないが、その不躾な視線の中にわずかな敵意を感じる。警戒しながら彼を見ていると、急に刃がアッシュに迫って来た。


 斬られる前に横に飛んで回避し、男の方に顔を向ける。その手にはいつの間にか武器が握られていた。細長く、先に刃が付いているので最初は槍だと思っていたのだが、よく見ると槍より刃が長く、わずかに曲がっていることから薙刀と呼ばれるものなのだろう。

 しかし、男が持っているのは刀身が異常に長く、普通の薙刀ではないようだ。


「刀を持った他国の人間とはお前のことだな」


 体格通りの低い声からやはり男性のようだ。彼から目を逸らさないままアッシュは答える。


「だったら?」


「その刀の価値をお前は知っているか?

 ヤエちゃんが言うには、それは有名な刀鍛冶の一族オカザキの中でも歴代一の腕を持つと言われるゲンの傑作と言われた二本の刀のうちの一本なんだそうだ。イスルギ家の次男によって二本とも他国へと渡ったらしいが、百本目の刀がそれとは俺は運がいい」


 その言葉を聞いてフクハラで刀を狙う大男がいるという噂を思い出した。


「貴方が、刀を狙って奪うという」


 忠告は受けたが、その前に聞いたシゲルと思われる少年の話など色々なことがあって今まで忘れていた。まさか本当に遭遇するとは思わなかった。







楽しんで頂けたなら幸いです。

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